百合若大臣 ~琉球沖縄の伝説
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~琉球沖縄の、先祖から伝わってきたお話~
奄美・沖縄本島・沖縄先島の伝説より、第70話。
百合若大臣
昔々、七日を一日ぐらいに考えている、そして大変寝坊な人がおりました。
その人の名は百合若大臣といい、美しい妻がおりました。
百合若大臣の家来達の中に、主人の妻を何とかして自分の妻に出来ないものかと考える邪な人物がいて、いつもその事ばかりを考えていました。また決まってそういう人間には同類の仲間がいました。百合若はいつも寝てばかりいたので、邪な部下は何人かの仲間を上手に誑かし、百合若が熟睡するのを見計らって、前もって用意してあった筏に百合若を乗せ、六尺の刀だけを彼の体の上に乗せて流してしまいました。
百合若は、寝付いて以後の事を全く知らないまま、目を醒ました時には離れ小島に漂着していました。
百合若は、取り敢えず、生きていくために仕方なく、六尺の刀が五寸になる迄、主に貝を漁って生活しました。また、シャコ貝の殻に水を溜めて飲み、何とかやっと生き長らえたのでした。
そんなある日のこと、岩に大きな鳥が止まっています。
側に近寄ってよく見てみると、昔から可愛がって飼ってきた自分の鳥ではありませんか。大変に驚きながら、鳥の足に結び付けられていた手紙を、早速読みました。その手紙は、妻が百合若に届くようにと、鳥に託したものなのでした。
百合若は、文を読みながら、全ての事情を知ると共に、自分に対する妻の変わらぬ愛の深さを知って、さめざめと涙を流したのでした。
それから自分の指先を刀で傷付けると、血で返事をしたため、空に鳥を放ったのでした。
文を携えた鳥が帰って来たため、百合若の妻は夫が無事で生きているのを知り、泣いて喜びました。
それからというもの、妻はこの鳥になるべく軽い食物べ物を選んで括りつけ、百合若の元へと運ばせたのでした。
そんなある日のこと、百合若は、今日も鳥が飛んで来ないのかと心待ちにしていると、遙か彼方の地平線に、鳥らしき影を見ました。
それを最初は喜びましたが、それも束の間のこと、俄に周囲の天候が搔き曇って荒れ模様になりました。同時に海も時化て、凄まじい暴風雨の悪天候に変わったのでした。
鳥の無事を念じながら、荒れ狂う風と雨の中で百合若は待ちに待ちましたが、遂に鳥が戻って来ることはありませんでした。
翌日になって、嵐が過ぎ去った浜辺を歩き回っていると、果たして、鳥が死んで流れ着いているのを見付けたのでした。百合若は鳥に駆け寄り、自分のために命を落とした鳥を嘆き悲しんだのでした。
百合若は、死んだ鳥をそっと抱き抱えると、島で一番景色がいい丘に登ると亡骸をそこに埋め、そこに簡素な碑文を立てて、丁重に葬ったのでした。
現在でも、この島では年に一度、この主人想いの鳥の冥福を祈る祭りが行われているそうです。
さて、それからというもの、百合若は為す術もなく、毎日、海を見ながら故郷に帰る方法を、あれこれ考えながら生活していました。
そんなある日のこと、やっと百合若に好機が訪れました。
大きな船が、珍しく島の近くの沖を通り過ぎようとしていたのです。
百合若は、その船影を見付けるなり、岩の上によじ登り、手を振り、また声の限り助けを求めたのでした。
まったく幸いなことに、船の方でも百合若に気付き、進路を変えて島に近寄って来ました。
待ちきれない百合若は海に飛び込んで船まで泳ぎ着くと、乗せてくれるように頼みました。
ところが、船の上から、こんな声が聞こえて来ました。
「何だ、あれは。
人間か。化物など船には乗せられない。」と。
百合若は叫んで言うことには、
「私は人間です。この島に流れ着いて、長い間、何とか今まで生き長らえて、こんな見窄らしい姿になりました。
どうか御願いです。何でも手伝いますから、船に乗せて下さい。」と。
そう言いながら、懸命に頼み込んだのでした。
こうして乗船を無事に許可された百合若は、偶然その船の行き先であった自分の故郷である島に帰り着く事が出来たのでした。
上陸するなり百合若は、かつて自分が住んでいた屋敷に向かいました。
屋敷の入り口には門番が立っていました。
どうしても中に入らねばならない訳があるからと、取り次ぎを頼むものの、百合若の容姿容貌が余りに酷かったため、最初は全く取り合って貰えません。
しかしながら、余りに懸命に頼む百合若に、とうとう門番達は根負けし、恐らく許可はされまいと思うが、取り次ぎを願う者がいるとだけ主人に伝えてやると言いました。
その代わり、もしも断られたら、この場から立ち去るようにとも言われました。
門番は、主人に恐る恐る報告しました。屋敷の中に入りたいという、変わった風体の者が門に来て、主人に会したいと申しておりますと。
それを聞くと、私も是非、その者を見てみたいと主人が言いました。
やがて中に通された百合若は、主人の前に進み出て、話し始めることには、
「聞くところに寄りますと、昔、この家には百合若大臣と言うお方がいらっしゃって、その方が身に着ける鎧や刀は相当な物で、何でも、どんな力持ちでさえも、それを身につける事が出来ないと代物だと聞いて、是非ともそれを見せて頂きたいと、やって来ました。もしも出来れば、私にそれを試させて欲しいと、遙々遠くからやって来たのだと言いました。
主人はそれを聞くと、早速、家来に命じてそれ等の品を運んで来させたのでした。
ところがどれもこれも大変に重く、七、八人がかりでやっとのこと、それは運ばれて来ました。
それを見た百合若は、こんな物を身に着けるとは、何と恐ろしい人物かと言いながら、どれどれ私が試して見ようと言いながら、鎧甲を身に着けたのでした。
すると百合若の眼光が鋭く光り、大声で言い放つことには、
「お前達は、よもや私のことを忘れたのか。」と。
そう言って、持っていた刀を一振りしたところ、鎧や刀の錆が四方に飛び散りました。
続いて百合若をかつて陥れた者達が、あっという間に、目鼻を切り落とされて全員、成敗されました。
言うまでもなく、こうして愛しい妻と再会した百合若は、再び幸せな生活が戻りました。
それから暫くの後、百合若と妻は相談して、恩がある島に十四、五人の頑強な大和の人間を送って水納島へ移り住ませたそうな。
※この話の参考とした話
①沖縄先島・沖縄県宮古郡多良間村水納島~『多良間村の民話』
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●伝承地
①沖縄先島・沖縄県宮古郡多良間村水納島~七日の日々を一夜と一日ぐらいに考えた、たいへん寝坊な人がいたそうです。それが百合若大臣で、美しい妻がいたそうです。それで百合若大臣の家来たちは、この主人の美しい妻を、自分の妻にすることができないものかと、いつも考えていたそうです。百合若が寝坊な人なので、その部下が彼の寝たすきを見はからって、イカダを造り、もの(ママ)きで出来た六尺の刀を彼の体の上に乗せて、流してしまったそうです。百合若大臣は、寝ついて全く知らなかったので、目を醒ました時は離れ島に流されてしまって、しかたがないので六尺の刀が五寸になるまで、貝をあさって生活したそうです。水は浜に上がったシャコ貝の殻で、水を溜めて飲んだりして暮していたらしいよ。
ある時、岩に大きな鳥が来て止まっていて、石を投げても飛び立つ様子がないので、だんだんと側へ近寄って見ると、昔、飼っていた鳥だったので大変驚いた。足には紙が結んであるので解いて見ると、妻が百合若大臣を捜すための手紙だったそうです。百合若大臣は、それを読みながら泣き、自分の指を刀で切って血を出し、その返事を書いて送ったので、それから百合若大臣の妻は、夫が無事で生きていることを知って、泣いて喜んでこの鳥に、たびたび軽い食物を運ばせて貢いでいたそうです。しかしある日、百合若大臣は、今日もまた、鳥は来ないかなーと待っていると、やっぱりやって来るのが遠くから見えて来たので、喜んでいると、急に天気が時化て雨と風の悪天候に変わってしまったので、百合若大臣は心配して無事を念願しながら待ちに待ったけれど、待てずに翌日、浜を散歩していると、鳥が死んで流れて来たので、百合若大臣は、その場で嘆き悲しみ、持って行って埋め、碑文を立てて葬ってやったので、現在でもこの村では、年に一回のお参りをして祭っているわけです。
それから百合若大臣は、どのようにすれば故郷へ帰る時があるだろうかと、毎日見張りをしながら生活していたようで、ある時、船が沖を通っているのを見つけ、岩の上に登って声を限りに招いたりして騒いでいると、幸い船の方でも気づいて近寄って来たようです。それで彼の方も泳いで行って乗せてくれるようにたのむのだが、「こいつは化物だから乗せられない」と言うので、「私は人間です。どうかお願いだから乗せて下さい」と頼みこんで、ようやく乗せてもらい、その船で自分の島へ帰り、自分の住んでいた屋敷を見たいもんだと行くと、そこには門番が構え、自由に中へ入ることができないので、入れてくれるよう、しつこく頼むので、門番たちにはどうしようもないので、主人に伝えると、「入りたい者を、まずは入れて見よ」と入れたそうです。すると百合若大臣は、これを幸いと入って、主人に会って話をして、昔このあたりに百合若大臣と言う人がいらっしゃって、その人が着ていたという鎧とか、煙草盆とか刀とか、ものすごい物があると聞いて、それを見せてもらいに来たと伝えると、百合若大臣を陥れた人が主人になっていたので、百合若大臣とは知らず、早速家来たちに命じて、それ等の物を運ばせたが、七、八人でもやっとのことで運んで来て見せたところ、「なんとまあ、恐ろしい人物であったろうか」と口を開いていたが、やがて眼光するどく、「君たちは、私のことを忘れたのか」と鎧かぶとなどを着け、刀を持って見震いすると、鎧や刀の錆がぱっと飛び散り、彼を企んだ者たちの目や鼻をつぶし、全員をやっつけてしまって、それから愛しい妻と一緒になり、忘れぬことのできなかった妻と、良い相談をして恩のある島のために、十四、五人の強い大和の人を、この水納島へ移り住ませたという話だよ。(『多良間村の民話』)
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