アーニマガヤ ~琉球沖縄の伝説
みんなで楽しもう!
~琉球沖縄の、先祖から伝わってきたお話~
奄美・沖縄本島・沖縄先島の伝説より、第169話。
アーニマガヤ
むかし昔、沖永良部島に、イチという男と、ナビグワという女の、それはそれは、とても仲がよい夫婦がおりました。野良仕事に行く時もいつも一緒で、二人が離れ離れでいる事は決してありませんでした。とても仲睦まじい夫婦だったので、人々からは夫婦の鏡とされ、また羨望の的でした。愛し合い過ぎる男女に子どもは出来ないといわれたりもしますが、偶々若い二人には直ぐに子どもが出来ませんでした。
或る日のこと、ナビグワは風邪に罹りましたが、余病を併発して重体に陥りました。言うまでもなくイチは、それこそ必死の看病に余念なく、昼夜を問わず、愛するナビグワの側を片時も離れませんでした。
ナビグワが、イチに向かって言うことには、
「今度という今度は、私、本当に助かるのかしら。二人して、うんと働いて、人も羨む家庭を築きたいと思っていましたのに、こんな事になってしまって、ごめんなさい。」と。
「何を馬鹿な事を言うでない。助からない事などあるものか。お前には私がついている。どんな事があっても私の力で治してみせるから、弱音など吐いてはいけないよ。」と。
イチはナビグワに、情愛豊かな言葉を優しく掛け続けて慰めるのでした。またイチは、朝に夕に、ナビグワの病が治るようにと神に祈り続けました。しかし祈りは天に通じず、或る日の未明、いつものようにナビグワはイチの手をしっかりと握り締めたまま、この世に未練を残しながら息を引き取りました。
イチの悲しみようはこの上なく、見る目も痛ましいのは言うまでもありません。イチは黙ったままナビグワの遺骸から決して離れず、夜は添い寝しました。翌日、棺に入れる際には、離れないイチをみんなで鎮めるのが大変でした。
ナビグワが葬られた場所は、アーニマガヤという所のトールバカでした。
イチはみんなと野辺送りを済ませてから、一旦は家に戻りましたが、ナビグワのことが忘れられず、またナビグワが独りっきりでは可哀想だと思って、夕暮れにまた一人でアーニマガヤに行きました。
そして夜が更けるのも忘れて泣いていると、何処からともなくナビグワが現われました。二人は抱き合って喜び、嬉し涙を流しながら、楽しかった日々を語り明かし、またどんなに互いを愛しているかを確認し合ったのでした。やがてイチは安心したのと、今までの疲れもあってか、寝入ってしまいました。翌朝目覚めた時に、イチは墓石を抱いていたそうです。
その後、イチはトールバカに通い続けたそうです。
その一方で人々は、トールバカには近づかなくなったそうな。
※この話の参考とした話
①奄美・鹿児島県大島郡知名町~『ふるさと知名町』
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●伝承地
①奄美・鹿児島県大島郡知名町~昔、イチ(男)、ナビグワ(女)という大変仲のよい夫婦がありました。野良に仕事に行くときも、いつも一緒で決して二人が離れ離れに歩くことはありませんでした。余り仲のよい夫婦でしたので他の人の羨望のまとでありました。或日ふとしたことから、ナビグワは風邪にかかり、余病まで併発して大病患者になり、重体が続きました。イチはそれこそ必死になって看病に余念がなく、昼夜ナビグワの側を離れたことはありませんでした。ナビグワは、イチに向って、
「今度という今度は、私ほんとに助かるでしょうか、今から二人してうんと働いて、人の羨む家庭を築きたいと思っていましたのに、申訳ありません」
「馬鹿をいうな、助からぬことがあるものか、どんなことがあっても、自分の力でなおしてみせる。弱音をはくな」と自信と情愛豊かな言葉をかけて慰めるのでした。或日の未明、ナビグワは夫のイチに、手をしかと握り締めながら、限りないイチの哀願も天に通ぜず、とうとうこの世に未練を残しながら、息を引取ってしまいました。イチの悲歎この上なく失心そのもので、外の見る目も痛ましく、ナビグワの遺骸に抱きついて離れませんでした。入棺するときも駄々をこね、回りの人々もイチを取り鎮めるのに大変なことでした。ナビグワが葬られたところは、アーニマガヤのトールバカでありました。一旦家に返りましたものの、イチはナビグワのことが忘れられず、夕暮になって、また独りでアーニマガヤに行くのでした。そして夜の更るのも忘れて泣き歎いていると。何処からとなく、ナビグワが現われ、ほんとだろうかと二人はよろこびあい、その夜は語り明かし、イチは安心し切ったのか、今までの疲れもあって、寝入ってしまいました。翌朝イチが目覚めたときは、イチは墓石を抱いていたということです。その後もイチはトールバカに通うて何回となく亡霊と話し続けるのでありました。こんな話が絶えてからも、終戦前まではよく道を迷わされる人がいたりしてこわがられていました。(『ふるさと知名町』)
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