花熟みー田ー ~琉球沖縄の伝説
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~琉球沖縄の、先祖から伝わってきたお話~
奄美・沖縄本島・沖縄先島の伝説より、第176話。
花熟みー田
むかし昔のお話です。
奄美の喜界島花良冶に、花熟みー田の話があります。
ある田圃があり、その田の持ち主の男は或る日の夕方、田を見廻って、畦に立っていたところ、イサンニョウから尾を引いた火の玉が飛んで来て、直ぐ近くの森の中に入って行きました。そして間もなく森の中から話し声が聞こえました。
「今晩、海へ行かないか」と。
するともう一つの声が聞こえました。
「私は目がとても痛むので行かれません。」と。
これで話し声が絶えるや否や、森から現れた例の火の玉は、そのまま来た海の方に向かって飛んで行きました。男は何とも不思議な場面に遭遇し、それから家に帰りましたが、話したところで信じて貰えないだろうと思って家族にも告げず、その晩はいつものように眠りにつきました。
翌日になって、いつものように田圃を見廻った後、序でに例の森の中に行ってみて腰を抜かしました。というのも、そこには人の骨と化した遺骸が蔓草に巻かれて横たわっていたためです。しかもよく顔をよく見ると、目の中に蔓草が根を下ろしています。
男は、昨日聞いた会話を思い出しので、もしかすると目が痛むので海へ行かれないと言った声の主のものだった気がして、早速頭蓋骨の周りの蔓草をすっかり刈り取って綺麗にしてあげました。
その後、田圃に出ると、時々森の中から見えるよう、見えるよう」という声が聞えてきました。
やがてその年の秋がやって来ました。見渡す限り、一面の田圃が黄金色一色に実り、稲が秋風に靡く季節です。例年のように、代官所から、今年の年貢を決める下調べのための役人がやって来ました。殆どの田圃は刈り取れるまでに成長している中、男の田の稲だけは青々としたままです。役人は調べた上で、この田からは収穫の見込みがなく、年貢は納める事は不可能であると判断されたのでした。
その後、男は畦道から田圃を見下ろし、呆然としながら立ち尽くしていたそうです。
すると例の森の中から、
「花熟み、花熟み。」と言う怪しげな声が聞こえて来ました。
何の事だろうと思いながらも、男は帰宅してから田圃をどうするか家族と話し合いました。そして明日、田圃から青々とした稲は刈り取って馬の餌にでもしようという事になりました。
翌日は、家族総出で田圃に出掛けました。青いままの稲を刈り取り始めて重みに驚きました。慌てて青い稲穂の中を見てみると、上出来の稲ではありませんか。家族は喜び勇んで、稲を全て刈り取ったのでした。
そして帰ろうとすると、またもや森の中から、「花熟み、花熟み。」という声が聞こえたのでした。
家に帰ってから、より詳しく籾を調べてみたところ、今までにないほど立派な米に実っていた上に、年貢を納めなくてよいというのですから、どれほど家族の者達が喜んだかは、今更言うまでもありません。
それ以来、家族は此の田を花熟みー田と呼んで大切にしたそうな。
※この話の参考とした話
①奄美・鹿児島県大島郡喜界町花良治~『喜界島古今物語』
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●伝承地
①奄美・鹿児島県大島郡喜界町花良治~花良治にハナウミーダーというのがある。河野の祖先が、ある夕方田圃を見廻って畔に立っていると、イサンニヨウから尾を引いた火玉が近くの森へ飛んで来た、と思うと、さっそく森の中から、次のような話声が聞えた。
「今夜海へ行こう」
「わたしは目が痛むので行けない」
話声が絶えたと思ったら、例の火玉は又すぐ海へ飛んでいった。畔に立って、その会話をきいていた彼は、あやしく、且つ、驚いて帰ったが、家人にも告げず、何心なく寝につくことができた。翌日、また田圃を見廻って、ついでに、例の森の中に行ってみてびっくりした。そこには、人体の死骸が蔓草に巻かれて横たわっており、その目かどのところに、つる草の根がさしこんでいるではないか。
「目が痛むので海へ行けない」という、昨日の怪しい声は、このことだったのか、と思い当り、頭蓋骨のまわりのつる草をすっかり刈り取って、きれいにさらえてやった。その後、時々、田圃に出ると森の中から、
「目よう、目よう」という声が聞えてきた。その年の秋だった。一面に黄金色を帯びて秋風になびいている田袋を、代官所から上納米の下調べに役人がやって来た。驚いたことには、他の田はみんな調査をおえて刈り取れるようになったのに、河野の祖先の田だけが、まだ青々として鎌をいれることができない。役人も、これは収穫の見込みなし、とあきらめて引きあげた。その後、しばらくして、主がしょうぜんとして畔に立っていると、例の森の中から、
「ハナウミ ハナウミ」という怪しげな声がきこえて来た。
「変だなあ」と思いながら、帰宅して家族のものと話合って、明日は、あの田を、すっかり刈取ってしまおうということにきめた。翌日、家族打連れて出掛け、その、青ままの稲を、すっかり刈り取ってしまった。ところが、なんと驚いたことに、収穫の見込みないとあきらめていた稲穂が、すっかり上出来の重みではないか。
一同が刈り終って帰りかけようとすると、森の中から、またもや
「ハナウミハナウミ」という声がしてきた。うちへ帰って調製してみると例年より豊作の充実した籾だったので家人はほくほく顔。以来、此の田を「ハナウミーダー」と称して今日に至っているとのことである。(『喜界島古今物語』)
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