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~琉球沖縄に伝わる民話~
新訳『球陽外卷・遺老說傳』第37話
通池に子を捨て神罰を受けた悪女
非常に遠い昔の時代、宮古郡伊良部村に、一人の悪女がおりました。
そして幼ない二人兄弟を養育していました。
兄は先妻から生まれた子で、弟はこの女から生まれた子でした。
二人がまだ幼ない時から、女はいつも兄弟の弟の方ばかりを溺愛し、酷く兄弟の兄の方を嫌っていました
ある日のこと、悪女は、兄弟の兄の方をあらかじめ計画して殺そうとしました。
そこで女は、二人の男の子達を抱いて、通池(伊良部下地島の西にあり)に連れて行きました。
そうして兄を池の畔に置き、女は、兄弟の弟を自分の懐に抱いてここで仮眠し、兄の方が熟睡するのを待って、そして深い池の中に落そうとしました。
ところが女が先に熟睡してしまいました。
兄は、心の奥底で母が自分を殺そうとするのを知っていたのでしょうか、密かに弟を他の場所に移し、代わって自分が母の懐に入り、それから睡眠をとったのでした。
やがて目覚めた母は、弟の子どもの方を誤って兄と勘違いし、深い池の中めがけて投げ入れると、慌てて兄を抱いたまま家に帰り、よくよく子どもを見てみると、自分の子ではありません。
これより後、女は昼夜を通して激しく泣き続けました。
世間の人々は、天からの悪事に対する報いだとして、女を物笑いの種にしたそうです。
※注や解説
【宮古伊良部邑】~宮古郡下地間切伊良部邑。伊良部島の村。「邑」は「村」に同じ。
【先室】~先妻、の意。
【恒に】~「常に」に同じ。いつも。
【甚だ】~普通の程度を遙かに超えているさま。大変。たいそう。非常に。マイナスイメージの意味は、酷く。
【悪む】~憎いと思う、嫌う、の意。
【一日】~ある日、先日、の意。
【謀殺】~あらかじめ計画して人を殺すこと。
【携へ】~連れ立って行く。伴う。
【而して】~「而して」「而して」から転じたもの。漢文訓読に用いられた語。そうして、それに加えて、の意。
【池畔】~池の畔。池のはた。池辺。
【睡去】~「去」は時間が過ぎ去る、の意。
【俟ち】~「待ち」に同じ。
【池中】~池の中。
【墜さん】~「落さん」に同じ。落そうとする。
【害す】~傷つける。損なう。妨げる。殺害する。殺す。
【搬し】~「移し」に同じ。移動する。
【悞りて】~「悞」は「誤」に同じ。間違って。
【擲入】~投げ入れる。
【慌忙】~慌ただしいこと。慌てること。また、そのさま。狼狽。
【熟然】~「熟」は、つくづく、よくよく、じっくり、しんから、しみじみ、の意。「然」は他の語に付き状態を表す。
【看る】~「見・視・観」に同じ。見る、の意。看るは特に、)そのことに当たる、取り扱う、世話をするの意。
【哭慟】~「慟哭」に同じ。悲しみのあまり声を上て激しく泣くこと。
【世上】~世の中。世間。
【悪報】~悪事に対する報い。
【原文】太古之世宮古伊良部邑有一惡婦者養育二男兄出先室弟出此婦二人幼稚之時恆愛其弟甚惡其兄一日惡婦要謀殺其兄婦抱二男携到通池(在伊良部下地之西)而置兄于池畔婦懷其弟而假眠於此要俟兄睡去以墜于池中婦先睡去兄深知母要害密搬弟他處換入母之懷以爲睡眠母以其弟悞爲其兄擲入池中慌忙抱兄歸家熟然看之非其子也自此之後晝夜哭慟世上之人爲天惡報以之爲笑
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