神罰を受けた悪女~新『球陽外卷・遺老說傳』第37話

横浜のトシ

2012年11月23日 20:20


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~琉球沖縄に伝わる民話~

新訳球陽外卷(きゅうようがいかん)遺老(いろうせつでん)』第37話

通池(とおりいけ)()()神罰(しんばつ)()けた悪女(あくじょ)





 非常(ひじょう)(とお)(むかし)時代(じだい)宮古(みやこ/みゃーく・)(ぐん・)伊良部(いらぶ)(そん)に、一人(ひとり)悪女(あくじょ)がおりました。
 そして(おさ)ない二人(ふたり)兄弟(きょうだい)養育(よういく)していました。
 (あに)先妻(せんさい)から()まれた()で、(おとうと)はこの(おんな)から()まれた()でした。
 二人(ふたり)がまだ(おさ)ない(とき)から、(おんな)はいつも兄弟(きょうだい)(おとうと)(ほう)ばかりを溺愛(できあい)し、(ひど)兄弟(きょうだい)(あに)(ほう)(きら)っていました
 ある()のこと、悪女(あくじょ)は、兄弟(きょうだい)(あに)(ほう)をあらかじめ計画(けいかく)して(ころ)そうとしました。
 そこで(おんな)は、二人(ふたり)(おとこ)()(たち)()いて、通池(とおりいけ)伊良部(いらぶ・)下地(しもじ・)(しま)西(にし)にあり)に()れて()きました。
 そうして(あに)(いけ)(ほとり)()き、(おんな)は、兄弟(きょうだい)(おとうと)自分(じぶん)(ふところ)()いてここで仮眠(かみん)し、(あに)(ほう)熟睡(じゅくすい)するのを()って、そして(ふか)(いけ)(なか)(おと)そうとしました。
 ところが(おんな)(さき)熟睡(じゅくすい)してしまいました。
 (あに)は、(こころ)奥底(おくそこ)(はは)自分(じぶん)(ころ)そうとするのを()っていたのでしょうか、(ひそ)かに(おとうと)()場所(ばしょ)(うつ)し、()わって自分(じぶん)(はは)(ふところ)(はい)り、それから睡眠(すいみん)をとったのでした。
 やがて目覚(めざ)めた(はは)は、(おとうと)()どもの(ほう)(あやま)って(あに)勘違(かんちが)いし、(ふか)(いけ)(なか)めがけて()()れると、(あわ)てて(あに)()いたまま(いえ)(かえ)り、よくよく()どもを()てみると、自分(じぶん)()ではありません。
 これより(のち)(おんな)昼夜(ちゅうや)(とお)して(はげ)しく()(つづ)けました。
 世間(せけん)人々(ひとびと)は、(てん)からの悪事(あくじ)(たい)する(むく)いだとして、(おんな)物笑(ものわら)いの(たね)にしたそうです。



 
※注や解説

宮古(みやこ/みゃーく・)伊良部(いらぶ・)(そん)】~宮古(みやこ/みゃーく・)(ぐん・)下地(しむじ)間切(まぎり・)伊良部(いらぶ・)(そん)伊良部島(いらぶじま)(むら)。「邑」は「村」に(おな)じ。
先室(せんしつ)】~先妻(せんさい)、の()
(つね)に】~「(つね)に」に(おな)じ。いつも。
(はなは)だ】~普通(ふつう)程度(ていど)(はる)かに()えているさま。大変(たいへん)。たいそう。非常(ひじょう)に。マイナスイメージの意味(いみ)は、(ひど)く。
(にく)む】~(にく)いと(おも)う、(きら)う、の()
一日(いちじつ/ひとひ/いちにち)】~ある()先日(せんじつ)、の()
謀殺(ぼうさつ)】~あらかじめ計画(けいかく)して(ひと)(ころ)すこと。
(たずさ)()】~()()って()く。(ともな)う。
(しこう/しか)して】~「(しかく)して」「(しか)して」から(てん)じたもの。漢文(かんぶん)訓読(くんどく)(もち)いられた()。そうして、それに(くわ)えて、の()
池畔(ちはん)】~(いけ)(ほとり)(いけ)のはた。池辺(ちへん)
睡去(すいきょ)】~「去」は時間(じかん)()()る、の()
()ち】~「()ち」に(おな)じ。
池中(ちちゅう)】~(いけ)(なか)
(おと)さん】~「(おと)さん」に(おな)じ。(おと)そうとする。
(がい)す】~(きず)つける。(そこ)なう。(さまた)げる。殺害(さつがい)する。(ころ)す。
(うつ)し】~「(うつ)し」に(おな)じ。移動(いどう)する。
(あやま)りて】~「悞」は「誤」に(おな)じ。間違(まちが)って。
擲入(てきにゅう)】~()()れる。
慌忙(こうぼう)】~(あわ)ただしいこと。(あわ)てること。また、そのさま。狼狽(ろうばい)
熟然(じゅくぜん)】~「熟」は、つくづく、よくよく、じっくり、しんから、しみじみ、の()。「然」は()()()状態(じょうたい)(あらわ)す。
()る】~「見・視・観」に(おな)じ。()る、の()()るは(とく)に、)そのことに()たる、()(あつか)う、世話(せわ)をするの()
哭慟(こくどう)】~「慟哭(どうこく)」に(おな)じ。(かな)しみのあまり(こえ)()(はげ)しく()くこと。
世上(せじょう)】~()(なか)世間(せけん)
悪報(あくほう)】~悪事(あくじ)(たい)する(むく)い。
【原文】太古之世宮古伊良部邑有一惡婦者養育二男兄出先室弟出此婦二人幼稚之時恆愛其弟甚惡其兄一日惡婦要謀殺其兄婦抱二男携到通池(在伊良部下地之西)而置兄于池畔婦懷其弟而假眠於此要俟兄睡去以墜于池中婦先睡去兄深知母要害密搬弟他處換入母之懷以爲睡眠母以其弟悞爲其兄擲入池中慌忙抱兄歸家熟然看之非其子也自此之後晝夜哭慟世上之人爲天惡報以之爲笑


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