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~琉球沖縄に伝わる民話~
新訳『球陽外卷・遺老說傳』第45話
平久保大鳥
八重山郡石垣島の平久保崎の大石島、及び、与那国島の東美崎に、毎年、秋の時節ともなると、大きな海鳥がいて、この両方の場所に飛んで来て、卵を産み、雛を養います。
この鳥は鵞に似ていて、翼の長さが三メートルほどであるとか。
島の人はまだその鳥の名を知らず、専ら平久保大鳥と呼んでいました。
もう少しで春が終わる時節になると、親鳥達は幼い雛を守りながら、そして本来の場所に帰って行くのが普通でした。
この鳥達は時々ですが山野を空高く飛び巡ることが非常に盛んになり、また一カ所に集まってきて、周囲を取り巻いて輪のように飛び、その真ん中に一羽が真っ直ぐに立ち、他の鳥達は一斉に翼を打ち鳴らし、そして喜び舞い踊ることを力の限り行うのだそうです。
※注や解説
【八重山島】~八重山郡。
【石垣島】~「石垣」の以前の発音は、「いしがち」など。
【平久保】~地名。石垣島の、宮良間切平久保村。「平久保」の以前の発音は、「ふぃらくぶ」など。「宮良」の以前の発音は、「みゃーら」など。
【平久保崎】~八重山諸島の主島である石垣島の北東部から長く突き出した平久保半島にある岬の名。
【大石嶼】~大石島。「嶼」は、島、小島。
【与那国島】~「与那国」の以前の発音は、「ゆなぐに」など。与那国島。『指南広義』『中山伝信録』には「由那姑尼」とあり、慶長の検地より「与那国」の表記に。「ゆなくに」は『南島風土記』によると、「おもろ『いやくに』に作り、土音『ドゥナン』または『ユノーン』にひびく」とある。なお地元では与那国島を「どぅなん・ちま」と呼ぶ。「ちま」は島()の意()。「どぅなん」の語源()には諸説()がある。「ゆうな」の木(学名:おおはまぼう)からきたもの。つまり、与那国の言葉()には濁音化()の傾向()が顕著()で、「ゆ」が「どぅ」にあり、「ゆうな」が「どぅな」という発音()になったとする。大海原()に盛()り上()った「どに」に故事()をつけて転訛()したもの。島()の伝説()「いぬがん」から、久米()が転訛()したもの、また、その話()にある犬退治()をした小浜男()の物語()に故事()をつけて、小舟()四隻()「どぅなん」からきたとするもの。ところで石垣島()では「与那国」を「ゆのおん」と呼()、それは「ゆうな・ふん」の転訛()とされ、「ふん」は組を意味()する言葉()で、「ゆのおん」は「ゆうな」の群生()の意()。
【東美崎()】~与那国()島()の古()くからの地名()。最近()では東崎()とも。琉球沖縄()では「東」を「アガリ」、つまり太陽()が昇()る方()の意()であり、「美」は日()の出()の美()くしさの意()。最西端()でありながら琉球()の太陽()信仰()がここにもよく表()れている。
【秋令()】~秋()の時節()。
【届()れば】~なると、の意()。
【両処()】~「両所()」とも。両方()の場所()。二つの場所()。二カ所()。(多く「御両所」の形で)二人()の人()を敬()っていう語()。お二人()。お二方()。
【飛来()】~飛()んで来()ること。
【下卵()し】~「下卵()す」は、卵()を産()む、の意()。
【雛児()】~孵化()して間()もない鳥()の子()。
【鵞()】~「䳘()」「鵝()」とも。ガチョウ。現在()では鵞鳥()と表記()されるが、古()くは「鵝」の文字()が使()われ「鵝()」と呼()ばれていた。「ガチョウ」の呼()び名()が一般化()したのは江戸時代()以降()。ガチョウとは雁()から作()られた家禽()。よって、この話()の「鵞()」は雁()。
【翼長()】~翼()の長()さ。特()に、鳥()の翼()の付()け根()から末端()までの長()さ。
【尺()】~尺貫法()における長()さの単位()。東()アジアで広()く使用()される。曲尺()では約三十.三センチ、鯨尺()では約三十七.九センチ。その他()の意味()に、長()さ、丈()、物差()し、さし等()がある。
【九尺()】~曲尺()では約三メートル弱、鯨尺()では約三メートル四十センチ。
【許()】~願()いを聞()き入()れる。許()す。おおよその数量()を表()す語()。ばかり。ぐらい。
【未()だ・・・・・・(打消語())】~まだ・・・・・・しない。
【只只()】~「ただ」を強()めていう語()。ひたすら。専()ら。
【既/已()に】~以前()に。前()に。もはや。とっくに。どう見()ても。現()に。すっかり。まったく。もう少()しで。今()にも。「既/已()に」の場合()は、もう少()しで、ある好()ましくない事態()になりそうなさま。すんでのこと。すんでのところ。
【暮春()】~ 春()の終()わり。春()の暮()れ。春()の末()。晩春()。陰暦()三月の異称()。
【帯()び】~身()に着()ける。腰()に下()げたり巻()いたりする。任務()や責任()などを負()っている。ある性質()・要素()などを少()し含()んでいる。
【小雛()】~幼()い雛()。小()さな雛人形()。
【以()て】~(漢文()における「以」や「式」の訓読()から生()じた語())。そして。(それ)によって。(それ)について。(それ)をもちいて。(多()く「…をもって」の形()で格助詞()のように使用()して)・・・・・・て。・・・・・・で。・・・・・・でもって。・・・・・・によって。・・・・・・の理由()で。・・・・・・により。・・・・・・に。・・・・・・の上()に。・・・・・・に加()えて。・・・・・・の上()に。・・・・・・かつ。・・・・・・しながら。
【回去()】~本来()の場所()に戻()って行()く。返送()する。帰()って行()く。
【便()す】~「縁()す」「因()す」とも。「寄()す処()」の意()。古()くは「よすか」。身()や心()の拠()り所()とすること。頼()りとすること。身寄()り。血縁者()。よるべ。手掛()かり。手立()て。方法()。自然()。手段()。原理()。基盤()。基準()。(「便()す」で)便利()なようにする。役立()たせる。
【翔()ける】~「駆()ける」とも。鳥()や飛行機()などが空高()く飛()び巡()ること。飛翔()する。空高く和歌()で心()の動()きが鋭()く表()れる。(「駆()ける」で)速()く走()る。
【至()りて】~「至()って」とも。程度()が甚()だしいさま。極()めて。非常()に。
【一処()】~一つの場所()。ひとつところ。
【聚集()】~人()や物()が一カ所()に集()まる。人()や物()を一カ所()に集()める。
【周囲()す】~「周囲()」は、まわり、取()り巻()き、外周()、円周()の長()さ、の意()。「す」はこの場合()、飛()ぶ、の意()。
【環()】~輪()。周囲()を取()り巻()く。
【如/若/似()し】~「如()し」は、(比況())・・・・・・ようだ。・・・・・・みたいだ。(比喩())・・・・・・と同じだ。・・・・・・の通()りだ。・・・・・・のようだ。(例示())たとえば・・・・・のようだ。・・・・・など。・・・・・のような。(不確実()な断定())・・・・・・のようだ。・・・・・・らしい。・・・・・・のようである。
【隻()】~ 助数詞()。比較的()大()きい船()を数()えるのに用()いる。屏風()はじめ対()になっている物()の片方()を数()えるのに用()いる。魚()・鳥()・矢()などを数()えるのに用()いる。
【站立()】~立()つ。(背筋()を伸()ばして両足()で)真()っ直()ぐに立()つ。(比喩()的()に)ぴんと立()つ。
【躍舞()】~「舞躍()」とも。よろこび舞()い踊()ること。
【致()す】~「する」の謙譲語()、丁寧語()、尊大()な言()い方()。届()くようにする。(その事()が元()でよくない結果()を)引()き起()こす。(ある状態()に立()ち)至()らせる。全力()で事()を行()う。心()を尽()くす。命()を差()し出()す。身()を捧()げる。
【原文】~八重島石垣平久保崎大石嶼及與那國東美崎毎年節屆秋令有大海鳥飛來此兩處下卵養雛兒似乎鵞翼長九尺許人未知其名只呼平久
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