平久保大鳥~新『球陽外卷・遺老說傳』第45話

横浜のトシ

2013年02月20日 20:20


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~琉球沖縄に伝わる民話~

新訳球陽外卷(きゅうようがいかん)遺老(いろうせつでん)』第45話

平久保大鳥(ひらくぼおうどり)




 八重山(やえやま・)(ぐん・)石垣(いしがき/いしがち・)(じま)平久保(ひらくぼ/ふぃらくぶ・)(ざき/ざち)大石(おおいし/うふいし・)(じま)(およ)び、与那国(よなぐに/ゆなくに・)(じま)東美崎(あがりみさき/あがりびさき/あいみしやし/アンアイ・サテ)に、毎年(まいとし)(あき)時節(じせつ)ともなると、(おお)きな海鳥(うみどり)がいて、この両方(りょうほう )場所(ばしょ)()んで()て、(たまご)()み、(ひな)(やしな)います。
 この(とり)()()ていて、(つばさ)(なが)さが三メートルほどであるとか。
 (しま)(ひと)はまだその(とり)()()らず、(もっぱ)平久保大鳥(ひらくぼおうどり)()んでいました。
 もう(すこ)しで(はる)()わる時節(じせつ)になると、親鳥(おやどり)(たち)(おさな)(ひな)(まも)りながら、そして本来(ほんらい)場所(ばしょ)(かえ)って()くのが普通(ふつう)でした。
 この鳥達(とりたち)時々(ときどき)ですが山野(さんや)空高(そらたか)()(めぐ)ることが非常(ひじょう)(さか)んになり、また一カ所(いっかしょ)(あつ)まってきて、周囲(しゅうい)()()いて()のように()び、その()(なか)一羽(いちわ)()()ぐに()ち、()鳥達(とりたち)一斉(いっせい)(つばさ)()()らし、そして(よろこ)()(おど)ることを(ちから)(かぎ)(おこな)うのだそうです。



 
※注や解説

八重山島(やえやまじま)】~八重山郡(やえやまぐん)
石垣(いしがき/いしがち)(じま)】~「石垣(いしがき・)」の以前(いぜん)発音(はつおん)は、「いしがち」など。
平久保(ひらくぼ/ふぃらくぶ)】~地名(ちめい)石垣(いしがき/いしがち)(じま)の、宮良(みやら/みゃーら・)間切(まぎり・)平久保(ひらくぼ/ふぃらくぶ・)(そん)。「平久保(ひらくぼ)」の以前(いぜん)発音(はつおん)は、「ふぃらくぶ」など。「宮良(みやら)」の以前(いぜん)発音(はつおん)は、「みゃーら」など。
平久保(ひらくぼ/ふぃらくぶ・)(ざき/ざち)】~八重山(やえやま)諸島(しょとう)主島(しゅとう)である石垣島(いしがきじま)北東部(ほくとうぶ)から(なが)()()した平久保半島(ひらくぼはんとう)にある(みさき)()
大石(おおいし/うふいし・)(じま)】~大石(おおいし/うふいし・)(じま)。「嶼」は、(しま)小島(こじま)
与那国(よなぐに/ゆなくに)(じま)】~「与那国(よなぐに)」の以前(いぜん)発音(はつおん)は、「ゆなぐに」など。与那国(よなぐに/ゆなくに・)(じま)。『指南広義』『中山伝信録』には「由那姑尼」とあり、慶長(けいちょう)検地(けんち)より「与那国」の表記(ひょうき)に。「ゆなくに」は『南島風土記』によると、「おもろ『いやくに』に作り、土音『ドゥナン』または『ユノーン』にひびく」とある。なお地元(じもと)では与那国島を「どぅなん・ちま」と)ぶ。「ちま」は(しま)()。「どぅなん」の語源(ごげん)には諸説(しょせつ)がある。「ゆうな」の木(学名:おおはまぼう)からきたもの。つまり、与那国の言葉(ことば)には濁音化(だくおんか)傾向(けいこう)顕著(けんちょ)で、「ゆ」が「どぅ」にあり、「ゆうな」が「どぅな」という発音(はつおん)になったとする。大海原(おおうなばら)()(あが)った「どに」に故事(こじ)をつけて転訛(てんか)したもの。(しま)伝説(でんせつ)「いぬがん」から、久米(ゆね)転訛(てんか)したもの、また、その(はなし)にある犬退治(いぬたいじ)をした小浜男(こはまおとこ)物語(ものがたり)故事(こじ)をつけて、小舟(こぶね)四隻(よんせき)「どぅなん」からきたとするもの。ところで石垣島(いしがきじま)では「与那国」を「ゆのおん」と()、それは「ゆうな・ふん」の転訛(てんか)とされ、「ふん」は組を意味(いみ)する言葉(ことば)で、「ゆのおん」は「ゆうな」の群生(ぐんせい)()
東美崎(あがりみさき/あがりびさき/あいみしやし/アンアイ・サテ)】~与那国(よなぐに/ゆなぐに・)(じま)(ふる)くからの地名(ちめい)最近(さいきん)では東崎(あがりさき)とも。琉球沖縄(りゅうきゅうおきなわ)では「東」を「アガリ」、つまり太陽(たいよう/てぃーだ)(のぼ)(かた)()であり、「美」は()()(うつく)くしさの()最西端(さいせいたん)でありながら琉球(りゅうきゅう)太陽(たいよう/てぃーだ)信仰(しんこう)がここにもよく(あらわ)れている。
秋令(しゅうれい)】~(あき)時節(じせつ)
()れば】~なると、の()
両処(りょうしょ )】~「両所(りょうしょ )」とも。両方(りょうほう )場所(ばしょ)。二つの場所(ばしょ)二カ所(にかしょ)。(多く「御両所」の形で)二人(ふたり)(ひと)(うやま)っていう()。お二人(ふたり)。お二方(ふたかた)
飛来(ひらい)】~()んで()ること。
下卵(げらん)し】~「下卵(げらん)す」は、(たまご)()む、の()
雛児(すうじ)】~孵化(うか)して()もない(とり)()
()】~「()」「()」とも。ガチョウ。現在(げんざい)では鵞鳥(がちょう)表記(ひょうき)されるが、(ふる)くは「鵝」の文字(もじ)使(つか)われ「()」と()ばれていた。「ガチョウ」の()()一般化(いっぱんか)したのは江戸時代(えどじだい)以降(いこう)。ガチョウとは(がん/かり)から(つく)られた家禽(かきん)。よって、この(はなし)の「()」は(がん/かり)
翼長(よくちょう)】~(つばさ)(なが)さ。(とく)に、(とり)(つばさ)()()から末端(まったん)までの(なが)さ。
(しゃく)】~尺貫法(しゃっかんほう)における(なが)さの単位(たんい)(ひがし)アジアで(ひろ)使用(しよう)される。曲尺(かねじゃく)では約三十.三センチ、鯨尺(くじらじゃく)では約三十七.九センチ。その(ほか)意味(いみ)に、(なが)さ、(たけ)物差(ものさ)し、さし(など)がある。
九尺(きゅうしゃく)】~曲尺(かねじゃく)では約三メートル弱、鯨尺(くじらじゃく)では約三メートル四十センチ。
(きょ)】~(ねが)いを()()れる。(ゆる)す。おおよその数量(すうりょう)(あらわ)()。ばかり。ぐらい。
(いま)だ・・・・・・(打消語(うちけしご))】~まだ・・・・・・しない。
只只(ただただ)】~「ただ」を(つよ)めていう()。ひたすら。(もっぱ)ら。
既/已(すで)に】~以前(いぜん)に。(まえ)に。もはや。とっくに。どう()ても。(げん)に。すっかり。まったく。もう(すこ)しで。(いま)にも。「既/已(すんで)に」の場合(ばあい)は、もう(すこ)しで、ある(この)ましくない事態(じたい)になりそうなさま。すんでのこと。すんでのところ。
暮春(ぼしゅん)】~ (はる)()わり。(はる)()れ。(はる)(すえ)晩春(ばんしゅう)陰暦(いんれき)三月の異称(いしょう)
()び】~()()ける。(こし)()げたり()いたりする。任務(にんむ)責任(せきにん)などを()っている。ある性質(せいしつ)要素(ようそ)などを(すこ)(ふく)んでいる。
小雛(こびな)】~(おさな)(ひな)(ちい)さな雛人形(ひなにんぎょう)
(もっ)て】~漢文(かんぶん)における「以」や「式」の訓読(くんどく)から(しょう)じた()。そして。(それ)によって。(それ)について。(それ)をもちいて。(おお)く「…をもって」の(かたち)格助詞(かくじょし)のように使用(しよう)して)・・・・・・て。・・・・・・で。・・・・・・でもって。・・・・・・によって。・・・・・・の理由(りゆう)で。・・・・・・により。・・・・・・に。・・・・・・の(うえ)に。・・・・・・に(くわ)えて。・・・・・・の(うえ)に。・・・・・・かつ。・・・・・・しながら。
回去(かいきょ)】~本来(ほんらい)場所(ばしょ)(もど)って()く。返送(へんそう)する。(かえ)って()く。
便(よすが)す】~「(よすが)す」「(よすが)す」とも。「()()」の()(ふる)くは「よすか」。()(こころ)()(どころ)とすること。(たよ)りとすること。身寄(みよ)り。血縁者(けつえんしゃ)。よるべ。手掛(てが)かり。手立(てだ)て。方法(ほうほう)自然(しぜん)手段(しゅだん)原理(げんり)基盤(きばん)基準(きじゅん)(「便(べん)す」で)便利(べんり)なようにする。役立(やくだ)たせる。
()ける】~「(かけ)ける」とも。(とり)飛行機(ひこうき)などが空高(そらたか)()(めぐ)ること。飛翔(ひしょう)する。空高く和歌(わか)(こころ)(うご)きが(するど)(あらわ)れる。(「(かけ)ける」で)(はや)(はし)る。
(いた)りて】~「(いた)って」とも。程度(ていど)(はなは)だしいさま。(きわ)めて。非常(ひじょう)に。
一処(ひとところ)】~一つの場所(ばしょ)。ひとつところ。
聚集(しゅうしゅう)】~(ひと)(もの)一カ所(いっかしょ)(あつ)まる。(ひと)(もの)一カ所(いっかしょ)(あつ)める。
周囲(しゅうい)す】~「周囲(しゅうい)」は、まわり、()()き、外周(がいしゅう)円周(えんしゅう)(なが)さ、の()。「す」はこの場合(ばあい)()ぶ、の()
(わ/かん)】~()周囲(しゅうい)()()く。
如/若/似(ごと)し】~「(ごと)し」は、比況(ひきょう)・・・・・・ようだ。・・・・・・みたいだ。比喩(ひゆ)・・・・・・と同じだ。・・・・・・の(とお)りだ。・・・・・・のようだ。例示(れいじ)たとえば・・・・・のようだ。・・・・・など。・・・・・のような。(不確実(ふかくじつ)断定(だんてい)・・・・・・のようだ。・・・・・・らしい。・・・・・・のようである。
(せき)】~ 助数詞(じょすうし)比較的(ひかくてき)(おお)きい(ふね)(かぞ)えるのに(もち)いる。屏風(びょうぶ)はじめ(つい)になっている(もの)片方(かたほう)(かぞ)えるのに(もち)いる。(さかな)(とり)()などを(かぞ)えるのに(もち)いる。
站立(たんりつ)】~()つ。背筋(せすじ)()ばして両足(りょうあし)で)()()ぐに()つ。比喩(ひゆ)(てき)に)ぴんと()つ。
躍舞(やくぶ)】~「舞躍(ぶやく)」とも。よろこび()(おど)ること。
(いた)す】~「する」の謙譲語(けんじょうご)丁寧語(ていねいご)尊大(そんだい)()(かた)(とど)くようにする。(その(こと)(もと)でよくない結果(けっか)を)()()こす。(ある状態(じょうたい)()ち)(いた)らせる。全力(ぜんりょく)(こと)(おこな)う。(こころ)()くす。(いのち)()()す。()(ささ)げる。
【原文】~八重島石垣平久保崎大石嶼及與那國東美崎毎年節屆秋令有大海鳥飛來此兩處下卵養雛兒似乎鵞翼長九尺許人未知其名只呼平久


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