与那国の頓岩の由来~新『球陽外卷・遺老說傳』第44話

横浜のトシ

2013年02月18日 20:20


みんなで楽しもう!
~琉球沖縄に伝わる民話~

新訳球陽外卷(きゅうようがいかん)遺老(いろうせつでん)』第44話

与那国(よなぐに)頓岩(とぅんがん)由来(ゆらい)




 与那国島(よなぐにじま)三根(さんにぬ)(ざき/ざち)(そと)(うみ)(なか)に、一つの(たか)(いわ)があります。
 名前(なまえ)頓岩(とんがん/とぅんがん)()ばれています。
 いつも海鳥(うみどり)がここをすみかとしてきました。
 (むかし)土地(とち)(もの)二人(ふたり)で、この(たか)(いわ)をよじ(のぼ)って、(とり)(たまご)()ろうとしたことがあります。
 ところが(いわ)はとめどなく(そび)()ち、周囲(しゅうい)から(たか)(けわ)しく()()っているため、(した)()りることが出来(でき)なくなってしまいました。
 二人(ふたり)(いわ)天辺(てっぺん)(たが)いに()かい()って(すわ)るなり、色々(いろいろ)(かんが)えを(めぐ)らせたそうですが、()りる手段(しゅだん)期待(きたい)出来(でき)そうな方法(ほうほう)はありません。
 やがて一人(ひとり)(ほう)が、(ちから)(ふる)()たせて気合(きあ)いのための大声(おおごえ)()げるなり、無理矢理(むりやり)絶壁(ぜっぺき)()(はじ)めたそうですがその(さい)に、地上(ちじょう)へそのまま転落(てんらく)して()んでしまったのでした。
 さて(のこ)っていたもう一人(ひとり)はこれを()ていて、ますます驚愕(きょうがく)していよいよ(おそ)ろしくなり、手足(てあし)(きゅう)(ふる)()したのでした。
 そして()ぐさま(てん)(あお)ぎながら()(さけ)び、足元(あしもと)地面(じめん)(うつぶ)せになると一心(いっしん)に、神様(かみさま)(すく)いを(ねが)(もと)めて(いの)りました。
 やや時間(じかん)()って、すっかりお(なか)()って、気持(きも)ちもまた憔悴(しょうすい)しきっていたので、(すこ)しの(あいだ)(おとこ)寝込(ねこ)んでしまいました。
 ()らず()らずのうちに(ゆめ)(なか)で、自分(じぶん)(からだ)移動(いどう)して三根(さんにぬ)(ざき/ざち)にあります。
 じっさいに(ゆめ)からすっかり目覚(めざ)めてみると、まったくその(とお)りになっていて災難(さいなん)はもはや()くなっています。
 (おとこ)は、(ふか)(かみ)感謝(かんしゃ)してから(いえ)(かえ)っていったのでした。
 この(こと)があってから(のち)人々(ひとびと)(みな)(かみ)(とうと/たっと)んで信仰(しんこう)するようになり、また頓岩(とんがん/とぅんがん)(かみ)(いわ)として(あが)めるようになりました。
 現在(げんざい)(いた)ってもなお、頓石(とんいし/うぶいてぃでぃ)(まえ)(とお)()ぎる(とき)はいつも、(かなら)(かぶ)っている(かさ)()いで人々(ひとびと)はお辞儀(じぎ)してから往来(おうらい)するとのことです。



 
※注や解説

与那国(よなぐに/ゆなくに)(じま)】~「与那国(よなぐに)」の以前(いぜん)発音(はつおん)は、「ゆなぐに」など。与那国(よなぐに/ゆなくに・)(じま)。『指南広義』『中山伝信録』には「由那姑尼」とあり、慶長(けいちょう)検地(けんち)より「与那国」の表記(ひょうき)に。「ゆなくに」は『南島風土記』によると、「おもろ『いやくに』に作り、土音『ドゥナン』または『ユノーン』にひびく」とある。なお地元(じもと)では与那国島を「どぅなん・ちま」と)ぶ。「ちま」は(しま)()。「どぅなん」の語源(ごげん)には諸説(しょせつ)がある。「ゆうな」の木(学名:おおはまぼう)からきたもの。つまり、与那国の言葉(ことば)には濁音化(だくおんか)傾向(けいこう)顕著(けんちょ)で、「ゆ」が「どぅ」にあり、「ゆうな」が「どぅな」という発音(はつおん)になったとする。大海原(おおうなばら)()(あが)った「どに」に故事(こじ)をつけて転訛(てんか)したもの。(しま)伝説(でんせつ)「いぬがん」から、久米(ゆね)転訛(てんか)したもの、また、その(はなし)にある犬退治(いぬたいじ)をした小浜男(こはまおとこ)物語(ものがたり)故事(こじ)をつけて、小舟(こぶね)四隻(よんせき)「どぅなん」からきたとするもの。ところで石垣島(いしがきじま)では「与那国」を「ゆのおん」と()、それは「ゆうな・ふん」の転訛(てんか)とされ、「ふん」は組を意味(いみ)する言葉(ことば)で、「ゆのおん」は「ゆうな」の群生(ぐんせい)()
三根(さんにぬ)(ざき/ざち)】~地名(ちめい)(しま)では「サンニ・ヌ・ダイ」と()ぶ。
頓岩(とぅんがん/とんがん)】~与那国島(よなぐにじま)のシンボルの一つ。(しま)では、「立神岩(たてがみ/たてぃがん)」、「頓石(とんいし/うぶいてぃでぃ)」とも。今は「たちがみいわ」などとも。
投宿(とうしゅく)】~宿(やど)をとること。旅館(りょかん)()まること。
土人(どじん)】~その土地(とち)()まれ(そだ)った(ひと)土着(どちゃく)(ひと)土地(とち)(ひと)。かつて原住民(げんじゅうみん)への軽侮(けいべつ)して使(つか)った()
攀登(はんとう)】~「登攀(とうはん/とはん)」とも。(たか)(やま)(けわ)しい岩壁(がんぺき)などをよじ(のぼ)ること。
卵蛋(らんたん)】~「卵」も「蛋」も(たまご)()
収取(しゅうしゅ)】~ 収得(しゅうとく)する。自分(じぶん)(もの)として収得(しゅうとく)する。((ほう)などにしたがって、あるいは家賃(やちん)など()まりのものを)()らす、()(おさ)めさせる。
挺々(えんえん)たる】~()わりなく。 とめどなく。「延延たり」の、(なが)(つづ)くさま、の()か。
高巌(こうがん)】~「巌」は、ごつごつした(おお)きな(いし)(いわ)岩穴(いわあな)岩屋(いわや)、ごつごつして(けわ)しい、(たか)(おお)きな(いわ)()
絶峭(ぜっしょう)】~「峭絶(しょうぜつ)」とも。(たか)(けわ)しく()()つさま。非常(ひじょう)(けわ)しい(やま)
(もっ)て】~漢文(かんぶん)における「以」や「式」の訓読(くんどく)から(しょう)じた()。そして。(それ)によって。(それ)について。(それ)をもちいて。(おお)く「…をもって」の(かたち)格助詞(かくじょし)のように使用(しよう)して)・・・・・・て。・・・・・・で。・・・・・・でもって。・・・・・・によって。・・・・・・の理由(りゆう)で。・・・・・・により。・・・・・・に。・・・・・・の(うえ)に。・・・・・・に(くわ)えて。・・・・・・の(うえ)に。・・・・・・かつ。・・・・・・しながら。
下来(げらい)し】~「下来(げらい)」は、動作(どうさ)起点(きてん)から(ほか)離脱(りだつ)すること。動作後(どうさご)固定(こてい)安定(あんてい)(とど)まること。
【し(がた)し】~することが(むずか)しい。うまくすることができない。やりにくい。(こま)る。(こま)らせる。困難(こんなん)(かん)じる。
対坐(たいざ)】~ 「対座(たいざ)」とも。(たが)いに()かい()って(すわ)ること。また、その(せき)
千慮(せんりょ)百思(ひゃくし)】~「百思(ひゃくし)千慮(せんりょ)」とも。色々(いろいろ)(かんが)えを(めぐ)らすこと。色々(いろいろ)方法(ほうほう)(かんが)え、思慮(しりょ)(めぐ)らすこと。
(ぼう)】~あれこれと手段(しゅだん)(こう)ずること。計画(けいかく)すること。(はかりごと)。よからぬ(たくら)み。
(ほどこ)す】~(あわ)れみの気持(きも)ちで(こま)っている(ひと)(たす)ける。(かざ)りや(おぎな)いのために(なに)かを()(くわ)える。効果(こうか)影響(えいきょう)期待(きたい)して(こと)(おこな)う。事態(じたい)改善(かいぜん)するようなことを(おこな)う。(「面目(めんぼく)(ほどこ)す」の(かたち)で)ある(こと)立派(りっぱ)()()げて(たか)評価(ひょうか)(たも)つ。 (ひろ)()(わた)らせる。(たね)などを()く。
()()し】~・・・・・・べきところが()い。
勉強(むりに)】~無理強(むりじ)いする。強制(きょうせい)する。無理(むり)だ。不十分(ふじゅうぶん)だ。しぶしぶだ。
地下(ちか)】~ここでは(した)地面(じめん)、つまり地上(ちじょう)、の()
愈愈(いよいよ)】~「(いよいよ)」「弥弥(いよいよ)」とも。いよいよ。ますます。とうとう。(たし)かに。本当(ほんとう)に。その時期(じき)(せま)っているさま。(まえ)よりも程度(ていど)(はなは)だしくなるさま。
(おそ)れ】~(おそ)る」は、「(おそ)る」「(おそ)る」「(おそ)る」「(おそ)る」とも。危害(きがい)(およ)ぶことを心配(しんぱい)してびくびくする。危害(きがい)(およ)ぼすような(ひと)(もの)(せっ)することを()けたがる。(こわ)がる。危惧(きぐ)する。神仏(しんぶつ)などを人為(じんい)(およ)ばないものとして(うやま)って()(つつし)む。 閉口(へいこう)する。(おそ)()る。
(にわ)かに】~急変(きゅうへん)するさま。突然(とつぜん)(きゅう)に。(にわか)に。通常(つうじょう)「陡」の音読(おんよ)みは「トウ」、訓読(くんよ)みは「そばだ(つ)」。
(おのの)く】~「(おのの)く」とも。(おそ)ろしさ、(さむ)さ、興奮(こうふん)などのために、(からだ)手足(てあし)(ふる)える。戦慄(わなな)く。
即/則/乃/便/就(すなは)(すなわち)】~現代仮名遣(げんだいかなづか)いでは「すなわち」。()いかえれば。つまり。とりもなおさず。まさしく。その(とき)は。そうすれば。その(とき)(むかし)。あの(ころ)当時(とうじ)即座(そくざ)に。()ぐに。たちまち。もう。(すで)に。
泣哭(きゅうこく)】~()(さけ)ぶこと。
(うつぶ)して】~「(うつぶ)す」は、うつぶせになる。うつむく。「()す」と同源(どうげん)
許願(きょがん)】~神仏(しんぶつ)(がん)をかけること。祈願(きがん)する。許愿(きょげん)
良良(やや)】~「良」の音読(おんよ)みは「リョウ 」、訓読(くんよ)みは「よ(い)」で、ここでは「良良」の訓読(くんよ)み「やや」。
肚裏(とり)】~「肚裡(とり)」とも。「肚」は()、の()(はら)(なか)(こころ)(うち)
(すで)に】~以前(いぜん)に。(まえ)に。もはや。とっくに。どう()ても。(げん)に。すっかり。まったく。もう(すこ)しで。(いま)にも。「(すんで)に/(すんで)に」の場合(ばあい)は、もう(すこ)しで、ある(この)ましくない事態(じたい)になりそうなさま。すんでのこと。すんでのところ。
()し】~「()す」は、食物(しょくもつ)(とぼ)しく空腹(くうふく)のため(ひど)(くる)しむ、()える、()え。
疲悴(ひすい)】~「疲」は、(つか)れる、くたびれる。「悴」は、(うれ)える、やつれる、やせ(おとろ)える。
暫時(ざんじ)】~(すこ)しの(あいだ)
(おぼ)えず】~無意識(むいしき)のうちに。()らず()らず。
(つつが)】~病気(びょうき)などの災難(さいなん)(わずら)い。(やまい)
拝謝(はいしゃ)】~(れい)()うことを(へりくだ)っていう()(こころ)から感謝(かんしゃ)すること。
尊信(そんしん)】~(とうと/たっと)んで信頼(しんらい)すること。また、(とうと/たっと)んで信仰(しんこう)すること。
巾笠(きんりゅう)】~(ぬの)(かさう)
【原文】~與那國島三根崎之外有一高岩名呼頓岩常有海鳥投宿於此昔有土人二名攀登此岩收取卵蛋挺挺高巖四面絶峭難以下來二人對坐千慮百思無謀可施一人奮力發氣勉強下來時落地下而死焉一人見之愈驚愈懼手足陡戰即仰天泣哭俯地許願至于良久肚裏已餓氣亦疲悴暫時睡眠不覺夢中移身在三根崎至于醒來無有少恙人深拜謝之而回家焉從此之後人皆尊信之以爲神岩至于今世過頓石前必脱巾笠而往來焉


Copyright (C) 横浜のtoshi All Rights Reserved.

関連記事