みんなで楽しもう!
~琉球沖縄に伝わる民話~
新訳『球陽外卷・遺老說傳』第44話
与那国の頓岩の由来
与那国島の三根崎の外の海の中に、一つの高い岩があります。
名前は頓岩と呼ばれています。
いつも海鳥がここをすみかとしてきました。
昔、土地の者が二人で、この高い岩をよじ登って、鳥の卵を取ろうとしたことがあります。
ところが岩はとめどなく聳え立ち、周囲から高く険しく切り立っているため、下に降りることが出来なくなってしまいました。
二人は岩の天辺で互いに向かい合って座るなり、色々と考えを巡らせたそうですが、降りる手段で期待出来そうな方法はありません。
やがて一人の方が、力を奮い立たせて気合いのための大声を上げるなり、無理矢理絶壁を降り始めたそうですがその際に、地上へそのまま転落して死んでしまったのでした。
さて残っていたもう一人はこれを見ていて、ますます驚愕していよいよ恐ろしくなり、手足が急に震え出したのでした。
そして直ぐさま天を仰ぎながら泣き叫び、足元の地面に俯せになると一心に、神様に救いを願い求めて祈りました。
やや時間が経って、すっかりお腹も減って、気持ちもまた憔悴しきっていたので、少しの間、男は寝込んでしまいました。
知らず知らずのうちに夢の中で、自分の体が移動して三根崎にあります。
じっさいに夢からすっかり目覚めてみると、まったくその通りになっていて災難はもはや無くなっています。
男は、深く神に感謝してから家に帰っていったのでした。
この事があってから後、人々は皆、神を尊んで信仰するようになり、また頓岩を神の岩として崇めるようになりました。
現在に至ってもなお、頓石の前を通り過ぎる時はいつも、必ず被っている笠を脱いで人々はお辞儀してから往来するとのことです。
※注や解説
【与那国島】~「与那国」の以前の発音は、「ゆなぐに」など。与那国島。『指南広義』『中山伝信録』には「由那姑尼」とあり、慶長の検地より「与那国」の表記に。「ゆなくに」は『南島風土記』によると、「おもろ『いやくに』に作り、土音『ドゥナン』または『ユノーン』にひびく」とある。なお地元では与那国島を「どぅなん・ちま」と呼ぶ。「ちま」は島()の意()。「どぅなん」の語源()には諸説()がある。「ゆうな」の木(学名:おおはまぼう)からきたもの。つまり、与那国の言葉()には濁音化()の傾向()が顕著()で、「ゆ」が「どぅ」にあり、「ゆうな」が「どぅな」という発音()になったとする。大海原()に盛()り上()った「どに」に故事()をつけて転訛()したもの。島()の伝説()「いぬがん」から、久米()が転訛()したもの、また、その話()にある犬退治()をした小浜男()の物語()に故事()をつけて、小舟()四隻()「どぅなん」からきたとするもの。ところで石垣島()では「与那国」を「ゆのおん」と呼()、それは「ゆうな・ふん」の転訛()とされ、「ふん」は組を意味()する言葉()で、「ゆのおん」は「ゆうな」の群生()の意()。
【三根()崎()】~地名()。島()では「サンニ・ヌ・ダイ」と呼()ぶ。
【頓岩()】~与那国島()のシンボルの一つ。島()では、「立神岩()」、「頓石()」とも。今は「たちがみいわ」などとも。
【投宿()】~宿()をとること。旅館()に泊()まること。
【土人()】~その土地()で生()まれ育()った人()。土着()の人()。土地()の人()。かつて原住民()への軽侮()して使()った語()。
【攀登()】~「登攀()」とも。高()い山()や険()しい岩壁()などをよじ登()ること。
【卵蛋()】~「卵」も「蛋」も卵()の意()。
【収取()】~ 収得()する。自分()の物()として収得()する。(法()などにしたがって、あるいは家賃()など決()まりのものを)取()らす、受()け収()めさせる。
【挺々()たる】~終()わりなく。 とめどなく。「延延たり」の、長()く続()くさま、の意()か。
【高巌()】~「巌」は、ごつごつした大()きな石()、岩()、岩穴()、岩屋()、ごつごつして険()しい、高()く大()きな岩()の意()。
【絶峭()】~「峭絶()」とも。高()く険()しく切()り立()つさま。非常()に険()しい山()。
【以()て】~(漢文()における「以」や「式」の訓読()から生()じた語())。そして。(それ)によって。(それ)について。(それ)をもちいて。(多()く「…をもって」の形()で格助詞()のように使用()して)・・・・・・て。・・・・・・で。・・・・・・でもって。・・・・・・によって。・・・・・・の理由()で。・・・・・・により。・・・・・・に。・・・・・・の上()に。・・・・・・に加()えて。・・・・・・の上()に。・・・・・・かつ。・・・・・・しながら。
【下来()し】~「下来()」は、動作()が起点()から他()へ離脱()すること。動作後()に固定()、安定()、留()まること。
【し難()し】~することが難()しい。うまくすることができない。やりにくい。困()る。困()らせる。困難()を感()じる。
【対坐()】~ 「対座()」とも。互()いに向()かい合()って座()ること。また、その席()。
【千慮()百思()】~「百思()千慮()」とも。色々()と考()えを巡()らすこと。色々()と方法()を考()え、思慮()を巡()らすこと。
【謀()】~あれこれと手段()を講()ずること。計画()すること。謀()。よからぬ企()み。
【施()す】~憐()れみの気持()ちで困()っている人()を助()ける。飾()りや補()いのために何()かを付()け加()える。効果()や影響()を期待()して事()を行()う。事態()を改善()するようなことを行()う。(「面目()を施()す」の形()で)ある事()を立派()に成()し遂()げて高()い評価()を保()つ。 広()く行()き渡()らせる。種()などを蒔()く。
【可()き無()し】~・・・・・・べきところが無()い。
【勉強()】~無理強()いする。強制()する。無理()だ。不十分()だ。しぶしぶだ。
【地下()】~ここでは下()の地面()、つまり地上()、の意()。
【愈愈()】~「愈()」「弥弥()」とも。いよいよ。ますます。とうとう。確()かに。本当()に。その時期()が迫()っているさま。前()よりも程度()が甚()だしくなるさま。
【懼()れ】~懼()る」は、「恐()る」「怖()る」「惧()る」「畏()る」とも。危害()が及()ぶことを心配()してびくびくする。危害()を及()ぼすような人()や物()と接()することを避()けたがる。怖()がる。危惧()する。神仏()などを人為()の及()ばないものとして敬()って身()を慎()む。 閉口()する。恐()れ入()る。
【陡()かに】~急変()するさま。突然()。急()に。俄()に。通常()「陡」の音読()みは「トウ」、訓読()みは「そばだ(つ)」。
【戦()く】~「慄()く」とも。恐()ろしさ、寒()さ、興奮()などのために、体()や手足()が震()える。戦慄()く。
【即/則/乃/便/就()ち(すなわち)】~現代仮名遣()いでは「すなわち」。言()いかえれば。つまり。とりもなおさず。まさしく。その時()は。そうすれば。その時()。昔()。あの頃()。当時()。即座()に。直()ぐに。たちまち。もう。既()に。
【泣哭()】~泣()き叫()ぶこと。
【俯()して】~「俯()す」は、うつぶせになる。うつむく。「伏()す」と同源()。
【許願()】~神仏()に願()をかけること。祈願()する。許愿()。
【良良()】~「良」の音読()みは「リョウ 」、訓読()みは「よ(い)」で、ここでは「良良」の訓読()み「やや」。
【肚裏()】~「肚裡()」とも。「肚」は胃()、の意()。腹()の中()。心()の内()。
【已()に】~以前()に。前()に。もはや。とっくに。どう見()ても。現()に。すっかり。まったく。もう少()しで。今()にも。「已()に/既()に」の場合()は、もう少()しで、ある好()ましくない事態()になりそうなさま。すんでのこと。すんでのところ。
【餓()し】~「餓()す」は、食物()が乏()しく空腹()のため酷()く苦()しむ、飢()える、飢()え。
【疲悴()】~「疲」は、疲()れる、くたびれる。「悴」は、憂()える、やつれる、やせ衰()える。
【暫時()】~少()しの間()。
【覚()えず】~無意識()のうちに。知()らず知()らず。
【恙()】~病気()などの災難()。患()い。病()。
【拝謝()】~礼()を言()うことを謙()っていう語()。心()から感謝()すること。
【尊信()】~尊()んで信頼()すること。また、尊()んで信仰()すること。
【巾笠()】~布()の笠()。
【原文】~與那國島三根崎之外有一高岩名呼頓岩常有海鳥投宿於此昔有土人二名攀登此岩收取卵蛋挺挺高巖四面絶峭難以下來二人對坐千慮百思無謀可施一人奮力發氣勉強下來時落地下而死焉一人見之愈驚愈懼手足陡戰即仰天泣哭俯地許願至于良久肚裏已餓氣亦疲悴暫時睡眠不覺夢中移身在三根崎至于醒來無有少恙人深拜謝之而回家焉從此之後人皆尊信之以爲神岩至于今世過頓石前必脱巾笠而往來焉
Copyright (C) 横浜のtoshi All Rights Reserved.