真川の由来~新『球陽外卷・遺老說傳』第50話

横浜のトシ

2014年08月18日 20:20


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~琉球沖縄に伝わる民話~

新訳球陽外卷(きゅうようがいかん)遺老(いろうせつでん)』第50話

真川(まがぁ)由来(ゆらい)



 (とお)(むかし)時代(じだい)真和志(まわし)(ぐん)識名(しきな)(そん)に、(ひと)つの(みず)()()井泉(せいせん)がありました。
 その(きよ)らかなことは()まった(みず)(そこ)まで()けるほどで、また(みず)(あじ)はこの(うえ)なく(あま)いものでした。
 この井泉(せいせん)(きた)一人(ひとり)女性(じょせい)()んでいて、名前(なまえ)真嘉戸(まかと)といいました。
 ()まれつきたいそう聡明(そうめい)女性(じょせい)で、また容姿容貌(ようしようぼう)(くに)(かたむ)かせかねないほどの美女(びじょ)でした。
 ある()のこと、この女性(じょせい)が、この井泉(せいせん)()って(みず)()んでいる(とき)(おう)が、たまたまこの()(とお)()ぎ、(にわか)彼女(かのじょ)()るなり、(ふか)くご寵愛(ちょうあい)()せ、首里城(しゅりじょう)内宮(ないくう)にお()(かか)えになって側室(そくしつ)にしたのでした。
 その(のち)も、彼女(かんじょ)(おう)のご寵愛(ちょうあい)()け、名前(なまえ)以外(いがい)(ごう)頂戴(ちょうだい)して、それを真嘉戸樽按司(まかとだるうんなじゃら)といいます。
 そしてその井泉(せいせん)真嘉戸井(まかとがぁ)名付(なづ)けられましたが、近世(きんせい)(いた)るとそれは真川(まがぁ)改名(かいめい)されたそうです。



※注や解説

往昔(おうせき)】~()()った(むかし)大昔(おおむかし)往古(おうこ)昔々(むかしむかし)(はる)(むかし)(いにしえ)
真和志(まわし)】~以前(いぜん)発音(はつおん)は「まーじ」など。真和志(まわし)沖縄県(おきなわけん)那覇市(なはし)中央部(ちゅうおうぶ)一地区(いちちく)とされてきた。かつては真和志(まーじ)間切(まぎり)。一九〇八年四月、島尻郡(しまじりぐん)真和志村(まわしそん)に。1953年10月、真和志市(まわしし)に。一九五七年十二月、那覇市(なはし)編入(へんにゅう)合併(がっぺい)
識名(しきな)】~地名(ちめい)以前(いぜん)発音(はつおん)は「しちな」など。
(そん/むら)】~「邑」の()は、もともと古代(こだい)中国(ちゅうごく)都市(とし)国家(こっか)(しめ)し、(てん)じて、地方(ちほう)都市(とし)集落(しゅうらく)(あらわ)すようになった漢字(かんじ)琉球国(りゅうきゅうこく/るーちゅーくく)は、(なが)中国(ちゅうごく)冊封(さくほう)体制(たいせい)()()まれてきた影響(えいきょう)で、慣例(かんれい)として漢字(かんじ)音読(おんよ)みが(おお)いのが特徴的(とくちょうてき)地名(ちめい)姓名(せいめい)など。沖縄(おきなわ)の「邑」=「村」もまた、その慣例(かんれい)から、すべて「そん」と発音(はつおん)
一泉(いづみ)】~(ひと)つの(いずみ)
(かー/がぁ)】~井泉(せいせん)井戸(いど)()(みず)(かわ)
清潔(せいけつ)】~(けが)れがないこと。衛生的(えいせいてき)であることや、そのさま。人柄(ひとがら)(おこな)いが(きよ)らかで、(うそ)誤魔化(ごまか)しがないことや、そのさま。
水味(みづあじ)】~(みず)(あじ)
(もっと)も】~(もっと)も、とも。この(うえ)なく。最高(さいこう)に。いちばん。(なに)よりも。きわめて。はなはだ。
眞嘉戸(まかと)】~眞=真。じんめい(じんめい)
質資(しつし)】~資質(つしし)()まれつきの性質(せいしつ)才能(さいのう)資性(しせい)天性(てんせい)
聰明(そうめい)】~聰=聡。物事(ものごと)理解(りかい)(はや)(かしこ)いこと。また、そのさま。(かみ)(そな)える(もち)や、きびなど。
姿色(ししょく)】~容姿(ようし)。みめかたち。
(くに)(かたむ)く】~日本(にほん)では美女(びじょ)遊女(ゆうじょ)傾城(けいせい)傾国(けいこく)()ぶ。傾国(けいこく)美女(びじょ)とは、(くに)(かたむ)けるほどの美女(びじょ)、つまり君主(くんしゅ)がその(うつく)しさに(おぼ)れて、(つい)には国家(こっか)存立(そんりつ)(あや)うくする、それほどの美女(びじょ)意味(いみ)する。
一日(いちじつ/ひとひ/いちにち)】~ある()先日(せんじつ)、の()
倏然(しゅくぜん)】~(きゅう)であるさま。(にわか)様子(ようす)
思慕(しぼ)】~(おも)(した)うこと。(こい)しく(おも)うこと。ご寵愛(ちょうあい)()けること。
内宮(ないくう)】~首里城(すいぐすく/しゅりじょう)内宮(ないくう)、「御内原(うーちばる/うーちばら/おうちばら/おうちばら)」。首里城は、御庭(うなー)筆頭(ひっとう)とする「(おもて)」の公的空間(こうてきくうかん)と、御内原という私的空間(してきくうかん)である「(うち)」からなり、区別(くべつ)されていた。御内原への出入(でい)りは、淑順門(しゅじゅじゅんもん)と、寄満(ゆいんち)中門(ちゅうもん)で、厳重(げんじゅう)(おこな)われた。御内原は、国王(こくおう)とその家族(かぞく)、そして(つか)えるたくさんの女官(にょかん)生活(せいかつ)する()であり、王家(おうけ)(のぞ)いて男子禁制(だんしきんせい)であった。御内原での祭儀(さいぎ)(さい)などには女官(にょかん)たちが正殿一階(せいでんいっかい)後之御庭(くしぬうなー)(あいだ)()()した。御内原の(おも)施設(しせつ)は、国王(こくおう)王妃(おうひ)居室(きょしつ)寝室(しんしつ)黄金御殿(くがにうどぅん)二階御殿(にーけーうどぅん)女官(にょかん)()(しょ)女官居室(にょかんきょしつ)(おう)即位(そくい)()()(おこな)世誇殿(よほこりでん)先王(せんのう)(まつ)った寝廟殿(しんびょうでん)王家(おうけ)料理(りょうり)(つく)寄満(ゆいんち)浴場(よくじょう)湯屋(ゆや)宝物(ほうもつ)保管所(ほかんじょ)金蔵(かねぐら)など。
(しょう)】~一人称(いちにんしょう)人代名詞(じんだいめいし)女性(じょせい)自分(じぶん)(へりくだ)っていう(。わらわ。わたくし。正妻(せいさい)(ほか)に、(あい)(やしな)女性(じょせい)。ひいきにすること。また、その(もの)。めかけ。そばめ。おみなめ。おんなめ。側室(そくしつ)上臈(じょうろう)
(こうむ)り】~(なに)かを(あた)えられる。 被害(ひがい)()ける。神仏(しんぶつ)目上(めうえ)(もの)から(あた)えられたものを()()れる。
(ごう)(たま)はりて】~本名(ほんみょう)(ほか)()頂戴(ちょうだい)して。
眞嘉戸樽按司(まかとだるうんなじゃら)】~眞=真。(きさき)御妃(うふぃ)(ひめ)王姉妹部(うみないび)、そして側室夫人(そくしつふじん)女按司(うんなじゃら)といった。
眞嘉戸井(まかとがぁ)】~井泉(せいせん)()
真川(まがぁ)】~井泉(せいせん)()近世(きんせい)以降(いこう)真嘉戸井(まかとがぁ)()
【原文】~往昔之世眞和志郡識名邑有一泉之井淸潔徹底水味最甘矣此井之北有一婦女名曰眞嘉戸質資聰明姿色傾國一日此女往井汲水時王偶過此地倏然見之深以思慕召入内宮爲妾後蒙寵愛賜號曰眞嘉戸樽按司因名其井曰眞嘉戸井至于近世改名眞川


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