口難はずしの御願
はいさい、今日拝なびら。
随分前に、ブログで是非書いて下さいと言われながら、なかなか書く機会がかったので、今日は「口難はずし」について書いてみようと思います。その方法も、最後に書いておきます。
全国を旅して、やがて沖縄や奄美を回るようになるうち、あるオバーと出会いました。会うたびに、オバーからお聞きしたあれこれの一つです。思い返すと、この素適なオバーからは随分たくさん、色々なことを学びました。戦争の話、古くからの村のしきたり、昔の生活や人々の様々な営み、沖縄人や奄美の人々の精神や地域性、マブイグミはじめ、とてもたくさんの事を教えて頂きました。
「あなたは、とっても文章が上手だから、沖縄や奄美の若い人に、たくさん素適な話を、してあげなさいヨ~」とオバーからよく言われたのを、ことある毎に思い出します。
思い返すとあれから年月も随分と流れ、オバーから聞いた話のいくつかを書いていなかった事を、まずはグソーのオバーにお詫びしたいと思います。
さり、あーとーとぅ、うーとーとぅ。
それにしても、親戚でもない見ず知らずの私が、沖縄で一番上等で優しい、沖縄の塊のようなオバーと出会わなかったら、きっと沖縄が大嫌いなまま二度と沖縄の土地を踏むことがなかったに違いありませんから、なんとも縁は不思議なものです。
今回、取り上げる内容は、そのオバーから教えて頂いた色々なことの一つ、他人から口災い(口難口事)を受けた時の「口難はずし」の方法です。オバーはそれを母から習い、そのお母さまも、そのまたお母さまから習ったのであり、昔は女性なら誰でも知り、行っていた事だとおっしゃっていました。
恨む、妬む、疎ましく思う感情はどんな人間にもあり、それが異常に強い人のこういった感情に、嫌な思いをした経験は誰もがもっていたりします。
沖縄奄美でも昔から、他人から口難口事を受ける事は決して少なくなかったようで、口難口事に対処する方法もまた先祖から子孫へと伝わってきました。
強い恨みや妬みを抱く人の思いは、口難口事として相手に影響を及ぼすと、沖縄や奄美では昔からそう考えられてきました。
そのため口難口事を受けた人は、体調不良が続いたり、特に理由もないのに物事が上手くいかない等、しばしば苦しい状況に陥ると考えられてきました。ただ、もちろんこれは何も沖縄や奄美だけに限った特別な事では、もちろんありません。
ところが沖縄や奄美の場合、素適なのはその先の考え方なのです。
苦しみの原因が口難口事と気づいた場合、それを押し返せば、悪い心を抱く人間の方に、苦しみは何倍、何十倍、何百倍にもなってはね返ると、そう考えられてきたのです。
悪い心や感情を秘める人が、なぜそんな人間になってしまったかという問題はひとまず横に置いて、理性や良心を失った人間、歪んだ精神や愛を持たない人間、いずれにしても魂が汚れた人間ほど厄介なものはありません。
一生懸命、真面目に努力を積み重ねて評価を得た途端に妬まれたり、真面目に生きているのに陰口をたたかれたり、恨みや妬みから口難口事を受ける事は、沖縄や奄美では昔から非常に多かったようです。
似た、日本の他の地域で有名なのは、丑三つ時に藁人形を五寸釘で打つ行為を、御存じの方も多いのではないでしょうか。ただこれは自分自身で行う行為ですが、沖縄や奄美の場合は、個人で行う以外に、それを職業にして呪いをかける民間の悪い霊媒師が非常に多かったため、口難口事の対処策としての「口難はずしの御願」が同時に発達し、また古くから日常化したようです。もちろん効き目が弱い時には地域を治める祝女や、神職者、善い霊媒師に頼むわけですが、ごく一般の人々の生活の中に悪魔払い的な風習はたくさん伝わり、それは子孫へと伝わってきました。
「口難はずしの御願」の歴史ですが、古くは琉球國が国家として行う場合から、村や一族、また個人単位で行う場合まで、実に色々だったようです。
正しい「口難はずし」は、ほかの御願同様に、線香を使って行います。ただここでは、私がオバーから聞いた、むかし年長者が日常行った最も典型的で簡単な方法を紹介します。それは最も身近な、フールの神様の力を借りる方法です。
その前に、方法を知って自分のものにする前の注意として、オバーから、これがとても大切な事だよと言われた注意がありますので、そのオバーの話に耳を傾けてみることにしましょう。
「この御願で、でーじ大切なことはねぇ、口難口事を祓うのが、目的じゃないよぉ~
自分にも悪いところがなかったか、相手の気持ちを傷つけなかったかとか、反省することが重要さぁ~
自分を省みる気持ちや、ちむぐくるが、でーじ大切なんだよぉ~」
繰り返しますが、昔の沖縄や奄美では、マブイグミ等と同様、口難はずしの御願もまた、家庭内の年長者の女性によってごく普通に、日常的に行われていたそうです。
具体的な内容や方法は以下です。
用意するもの
塩、米を小皿や盃に入れる。お酒も用意。
準備
トイレは、きれいに掃除しておく。
時間帯
アコークローの時間に行う。
御願の手順
①塩、米を、トイレの便器の前あたりに置く。
便器に向かって座る。
②グイスを唱える。唱えるはグイス以下。
「さり、あーとーとぅ、うーとーとぅ、まさしぇーるフールの神様。
私は(住む地域)に住む(干支)年生まれの(氏名)です。
私に口難口事が入ってきています。
私に対する悪い気持ちは、このフールから流れて、その人と親しくなるようにして下さい。
今、私にかかっているヤナ口は、受けることができません。
ヤナ口は、出した人の口に返し、善い口に戻してあげて下さい。
私も、善い心で相手を迎えますので、これからは相手も善い心を持ちますように。
さり、あーとーとぅ、うーとーとぅ」
③言い終わったら、左手で塩、米、お酒を半分、便器の中に流す。
④塩を頭のつむじに擦り込み、お酒で「うびなでぃ」する。(※これは、口災いて穢れた体を清めるため。
「うびなでぃ」は本来、中指以外を閉じて、中指にお酒や水などをつけて、相手の眉と眉の間を、軽くトントントンと3回つけるものです。この場合は、自分ひとりなので自分で。)
⑤残りの塩、米、お酒を持って、玄関へ。玄関の扉を開けて、左手でそれらをすべて、勢いよく、ぶちまきます。それから、しっかりした強い口調で次を言い放ちます。
「ヤナ口、口難口事は、一切受けません!
出した口に返す!
この戸柱をくぐる時には、やな心を、どうか善い心に変えて通してください。
さり、あーとーとぅ、うーとーとぅ」
⑤玄関を閉めたら、その日の外出は、なるべく避けましょう。
なお、しっかり魂をこめてする事が大切だと、オバーは言っておりました。
「覚えるのが大変だなあ。」と私が言ったところ、紙に書いて読みながらでもいいさぁーとも言っておりました。
では。
タマさん、
お読み頂き、ありがとうございます。
ご質問ですが、
一人でする時はご自分で、
他者がする場合は、
相手にという事になります。
説明がよくなく申し訳ありませんでした。
本文、補足しておきます。
初めまして。かなり興味深い記事拝見させて頂きました。少し疑問に思う所がありまして教えて頂けたらと思いコメントさせていただきます。御願の手順④のうびなでぃーの説明で“相手の眉まゆと眉まゆの間”とありますがこの場合相手は誰を指しているんでしょうか?
よっこ樣、お返事が遅れて申し訳ありません。
状況がわからないので、正しい答えになるかはわかりませんが、 まずは正しく行動するのが最も肝心かと。
いずれにせよ、玄関に捨てるというのは、あまりよくない気がします。
捨ててはいけない物は、持ち主にきちんと返還しないと犯罪になりますし(着払いで)、
捨てるべき物なら、玄関でなくゴミに出してきちんと廃棄すべきだと思いますが、やはり状況がよくわからないので、なんとも。
玄関に捨てた物の片付けはどうしたら良いですか?
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