ウニガマ ~琉球沖縄の伝説

2011年06月23日

Posted by 横浜のトシ(爲井) at 20:20│Comments(2)琉球沖縄の伝説・奄美編

みんなで楽しもう!
~琉球沖縄の、先祖から伝わってきたお話~

奄美・沖縄本島・沖縄先島の伝説より、第165話。


ウニガマ



 (いま)から三百年(さんびゃくねん)位前(ぐらいまえ)の、一六六四(せんろっぴゃくろくじゅうよ)(ねん)奄美(あまみ)喜界島(きかいじま)塩谷(しおたに)奥地(おくち)に、ウニガマ(鬼がま)という岩窟(がんくつ)があり、そこに一人(ひとり)(おとこ)()んでおりました。村人達(むらびとたち)は、この(おとこ)村里(むらざと)()()ては(ひと)をさらって()()うと(うわさ)し、(おに)()んで、大変(たいへん)(おそ)れていました。
 やがてこの(うわさ)(しま)じゅうに(ひろ)まりました。そして、(おとこ)親類縁者(しんるいえんじゃ)(みみ)にも(はい)りました。
 しかし(おとこ)(いもうと)だけは、自分(じぶん)(あに)(やま)(はい)って(おに)になり、人肉(じんにく)()べて(くら)しているなどという風評(ふうひょう)(うわ)さなど(まった)(しん)じられず、行方(ゆくえ)()れずだった(あに)(さが)しに(やま)(はい)りました。そして山中(やまじゅう)(ある)(まわ)り、やっとの(こと)(あに)(さが)()てたのでした。
 兄妹(きょうだい)(たが)いに(なみだ)(なが)して再会(さいかい)(よろこ)んだのは、()うまでもありません。
 さて、(いもうと)(あに)見付(みつ)けた(とき)ですが、偶々(たまたま)(あに)(よこ)で、大鍋(おおなべ)(なに)かが煮立(にた)っていました。
 (あに)満面(まんめん)()みをたたえて(いもうと)()うことには、
 「本当(ほんとう)によくここまで()てくれた。まったく、丁度(ちょうど)いい(とき)にやって()た。一寸(ちょっと)、水(みず)()んで()るから、この(なべ)(ふた)絶対(ぜったい)()けずに、このまま()ていてくれ。」と。
 そう()(のこ)すと、(いもうと)には()からないように包丁(ほうちょう)小脇(こわき)(かか)えると、小川(おがわ)(ほう)()()したのでした。
 (みず)()むサニガーという(いずみ)は、木立(こだち)(あいだ)をくぐって(ひゃく)メールぐらい()った(ところ)にありましたが、途中(とちゅう)木陰(こかげ)があるため、お(たが)いの動静(どうせい)はわかりません。(あに)は、水汲(みずく)みに(こと)()せて(いずみ)包丁(ほうちょう)()()ましながら、(あま)りの(うれ)しさに(とき)()つのを(わす)れていました。
 一方(いっぽう)(いもうと)は、まさかとは(おも)いましたが、(おそ)(おそ)(なべ)(ふた)()ってみて(おどろ)きました。
 なんと(なべ)(なか)には、ハヅキ(針突)(※入墨(いれずみ)。沖縄でいう針突(はじち))(ほどこ)された()(こう)が、(あざや)かな(いろ)()()ています。これは(わか)女性(じょせい)のものに(ちが)いありませんでした。
 (いもうと)は、(なべ)()()(かえ)しました。肉片(にくへん)(ほね)四方(しほう)()()りました。即座(そくざ)(いもうと)は、(ちか)人里(ひとざと)目掛(めが)けて韋駄天(いだてん)(ごと)く、(もり)(なか)を、(はし)りに(はし)ったのでした。
 ()もなく(いえ)(かえ)った(あに)は、(なべ)(にく)地面(じめん)散乱(さんらん)しているのを()て、()ぐに屋外(おくがい)()()てみると、(はる)(した)を、(いもうと)一目散(いちもくさん)(さと)()かって()げているのが()えます。それを()(あに)激怒(げきど)し、獲物(えもの)をみすみす(のが)すまいと、もの(すご)(いきお)いで(いもうと)(あと)()いました。
 そして、(さか)中腹(ちゅうふく)にあるミンヌマシャー(※牛に水をのませる所)()()かった(とき)のことです。(あし)(すべ)らせて、()がりくねった(みち)(いき)(あま)って、水成岩(すいせいがん)激突(げきとつ)し、したたかに(はら)をぶつけたのでした。
 (いき)()()えに(つぶや)いた最後(さいご)言葉(ことば)は、
 「ウター(ちち)ぶっく、かんばっかちゃー(※意味~ウターは、妹の名前。妹の乳ぶくろのおいしい肉を食いそこねた)。」と。
 そう(ちい)さく(さけ)ぶと、そのまま(もだ)()んだと、(いま)(かた)()がれているそうな。

 
※この話の参考とした話
柳田~「鬼越峠」
奄美・鹿児島県大島郡喜界町塩道~『喜界島古今物語』
奄美・鹿児島県大島郡喜界町塩道~『喜界島の史跡と伝説』


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●伝承地
柳田~「鬼越峠」
奄美・鹿児島県大島郡喜界町塩道~古老は、昔(といっても三百年位前~一六六四~より、)この穴に一人の男が棲んでいたが、村人達は、この男が、人肉を食って生を完うしているそうだと、噂をし合うて、大いに恐れていたという。而して、この噂は、いつの間にか島一円に拡まって、そのうちに、鬼男の血族、縁者の耳にもはいった。その妹は、兄が人肉を食べて暮している噂を、自分で、確めてみなければ信ずることが出来ぬとして、ある日、その実否を確めようと、わざわざ兄の住いを訪れたのである。偶々(たまたま)、大鍋に何かを「グツ、グツ」煮たてている所であった。兄は、妹をみるや、笑顔を満面にたたえて、「よく来てくれた。丁度いい時である。一寸、水を汲んで来るから、鍋を、あけずに煮てもらおうーー」と言い残して、すたこら駈け出して行った。水を汲むサニガー)という泉は、木立の間をくぐって百メールを少々越す位の所にあったが、木陰になっているので、妹の動静は全くわからなかった。鬼男は、水汲みに事よせて包丁をとぎすましていたので、時のたつのも忘れていた。妹は、時はよしと、鍋の蓋取ってみて驚いた。何んと、鍋の中には、ハヅキ(入墨・いれずみ)を施した手の甲が、鮮かに、浮き彫りになっているではないか。鍋をひっくりかえし、肉片を四方に投げ散らすや、否や、妹は、近くの人里めがけて韋駄天の如く走りに走った。間もなく帰った兄は、鍋の肉が、見る蔭もなく捨て散らされ、妹は、既にここを去って、里にむかって走りつつある姿をみて、激怒した。早速、妹の後を追ったが、坂の中腹にあるミンヌマシャー(※牛に水をのませる所)にさしかかった時、カーブの水成岩に足をすべらせ、勢いこんだ力があまって、したたかに腹をぶっつけた。「ウター乳ぶっく、かんばっかちゃー(ウターは妹の名前。妹の乳ぶくろのおいしい肉を食いそこねた)」と叫んで悶え死(し)んだとは。今に語りつがれている謎みたいな話である。(『喜界島古今物語』)
奄美・鹿児島県大島郡喜界町塩道~今から二〇〇年ほど前に一人の男が塩道の裏山の岩穴に住んでいた。この男は人肉を食べ歩いているという噂が広まった。この男の妹が確かめに行ってみると、なにか煮ていた。男は妹に鍋の蓋をあけるなといいおいて、水を汲みに下りていった。妹が鍋の蓋をとると、入れ墨をした手の甲がみえたので、鍋をひっくり返して逃げた。それに気づいた兄が妹を追いかけてきたが、途中で足をすべらし腹をぶっつけて死んだ。死ぬ前に妹の乳を食べそこねたと叫んだという。(『喜界島の史跡と伝説』)


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わくがみサン、こんにちは。

この話、沖縄では有名な、ムーチーの話などに、とっても似てるんです。

『灰色』の世界ですか。なるほど。
教育学の昔は、子どもは、
心が真っ白な白紙の心の状態で生まれてきて、色々なものに染まっていくという考え方と、
逆に、
心が真っ黒な獣のような心の状態で生まれてきて、勉強や学問などを学ぶことによって白くなっていくという考え方とが、
ありました。

現在は、真っ白ではないけれども、やや灰色の状態で生まれてくるという考えが主流の気がします。

実際問題、
権力やパワーを得た、地位ある人々は、
欲、特に、つきつめれば金におぼれて『ダークサイド』へ進んで来た人ばかりです。

けれども忘れてならないのは、
それでも今の日本があるのは、きちんと支えてきた有能な人物もいるのだから、
捨てたもんじゃないわけです。

ともにフォースのあらんことを!
Posted by 横浜のtoshi横浜のtoshi at 2011年06月24日 07:37


今も昔も、このような悲しい出来事があるのですね・・・

基本人間は『灰色』の世界を歩んでいるのが大多数。

『白』か『黒』を歩んでいるのが、ごく僅か・・・

『スターウオーズ』ではありませんが・・・多くの方、それも実力や地位のある方々には『ダークサイド』へ進んで欲しく無い事が願いです・・・
Posted by わくがみわくがみ at 2011年06月23日 20:34


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