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~琉球沖縄に伝わる民話~

新訳球陽外卷(きゅうようがいかん)遺老(いろうせつでん)』第10話

博尖屋(ばくちゃやー)平松(ひらまつ)




 那覇(なは)西村(にしそん)(きた)(はま)(ひと)つの(なか)(ひろ)(いわや)がありました。
 (ふか)いので洞穴(ほらあな)雨風(あめかぜ)(さえぎ)り、まるで家屋(かおく)()ていました。
 (とお)人里(ひとざと)から(へだ)たった場所(ばしょ)にあり、洞窟(どうくつ)(そと)はうっそうと樹木(じゅもく)()(しげ)り、そこを()(ひと)はいるのかいないのか()からない(ほど)ごく(わず)かでした。
 そんな理由(りゆう)のために(とお)(むかし)時代(じだい)博打(ばくち)()(もの)がいて、(おお)くがここに(あつ)まって、(ひそ)かに賭博(とばく)をし、そして(あそ)んでいたそうです。
 そんなわけでこの(いわや)名付(なづ)けて博尖屋(ばくちゃやー)()いました。
 近世(きんせい)になると、岩石(がんせき)()れて(くず)れ、洞窟(どうくつ)半分(はんぶん)(ほど)になっていくつかの墓所(ぼしょ)になっています。
 ところで(むかし)石門(いしじょう)より広厳寺(こうがんじ)(いた)両側(りょうがわ)に、(みち)(はさ)んで(まつ)()(ひゃく)五十六(ごじゅうろっ)(ぽん)ありました。
 その(なか)一本(いっぽん)(もっと)()きん()立派(りっぱ)(まつ)で、枝葉(えだは)(かげ)ってほの(ぐら)く、()(かげ)幾重(いくえ)にも(かさ)なっていました。
 (まつ)(うえ)白雲(はくうん)さえとどめるようで、(した)(みち)()(ひと)(やす)ませていました。
 また(とお)くから(のぞ)()ると巨大(きょだい)(むしろ)のようであり、(ちか)くから()ると天幕(てんまく)()ていました。
 そんな理由(りゆう)から「平松(ひらまつ)」と()いました。
 (いま)では、その()名付(なづ)けて平松(ひらまつ)()います。



 
※注や解説

那覇(なは/なーふぁ)】~(ふる)くは那覇(なは/なーふぁ)(ひがし/ふぃがし・)(そん)西村(にしそん)()わせた地域(ちいき)那覇(は/なーふぁ)()んでいた。
(いわや)】~洞穴(ほらあな)辻町(つじまち)西側(にしがわ)海岸(かいがん)にあったとされるが、現在(げんざい)はない。
博尖屋(ばくちゃやー)】~『由来記(ゆらいき)』に「バクチ屋」とある。(ぞく)に「ばくちゃやー」ともいう。博打/博奕(ばくち)禁制下(きんせいか)寓話(ぐうわ)であろうか。薩摩(さつま)琉球(りゅうきゅう)制圧(せいあつ)するも(くに)解体(かいたい)する方策(ほうさく)をとらずに(のこ)し、検地(けんち)(おこな)い、総石高(そうこくだか)を約九万石(まんごく)とし(のち)には八万三千石に訂正(ていせい)上納品(じょうのうひん)()()(こと)奄美(あまみ)割譲(かつじょう)(めい)じる。そして尚寧王(しょうねいおう)帰国(きこく)させる(さい)に「掟十五条」を(もう)(わた)すが、その(なか)に「博打(ばくち)道理(どうり)()わないことの禁止(きんし)」がある。
(なか)()(いわや)()り】~その洞窟(どうくつ)半分(はんぶん)(ゆう)し、(あと)には幾基(いくき)かの墓所(ぼしょ)となっていた。『由来記(ゆらいき)』には「洞窟(どうくつ)(すで)(あさ)(いま)(また)(ひと)(はか)()る」とある。
石門(いしじょう)】~地名(ちめい)。「西武門(にしんじょう)周辺(しゅうへん)(おも)われるが、久米(くみんちゃ/くにんだ/くめ)(そん)には、一四世紀(せいき)後半(こうはん)より、中国(ちゅうごく)福建(ふっけん)から(うつ)()んだ人達(ひとたち)定住(ていじゅう)していた。その久米(くみんちゃ/くにんだ/くめ)(そん)()(ぐち)()っていたのが南門(みなみもん)久米大門(うふじょう)で、久米大道(くにんだうふみち)(※現在の久米大通りの北西側)反対側(はんたいがわ)北門(きたもん)()っていたのが西武門(にしんじょう)久米大門(うふじょう)から天使館(てんしかん)(あと)(つづ)(みち)(いま)()い。戦前(せんぜん)は「大門前(うふじょうのまえ)(どお)り」と()ばれ、市役所(しやくしょ)山形屋(やまがたや)円山号(まるやまごう)百貨店(ひゃっかてん)などがあり、那覇(なは)(もっと)(にぎ)わう(みち)だった。
広厳寺(こうがんじ)】~護国寺(ごこくじ)の東偶、天尊廟(てんそんびょう)(とな)りに()っていた。島津軍(しまづぐん)琉球(りゅうきゅう)侵攻(しんこう)(さい)焼失(しょうしつ)。一四五〇~五七(ねん)建立(こんりゅう)臨済宗(りんざいしゅう)寺院(じいん)当初(とうしょ)那覇(なは)()若狭(わかさサ)(ちょう)丁目(ちょうめ)久茂地(くもじ)(がわ)左岸(さがん)位置(いち)していた。一六〇九(ねん)薩摩(さつま)琉球(りゅうきゅう)侵攻(しんこう)により焼失(しょうしつ)(のち)護国(ごこく)()東南(とうなん)天尊廟(てんそんびょう)隣接(りんせつ)して再建(さいけん)され、琉球(りゅうきゅう)処分(しょぶん)()廃寺(はいじ)
翳々(えいえい)として】~かげってほの(ぐら)いさま。
(とど)む】=「トドム」。
(むしろ)】=「(むしろ)」。巨大(きょだい)(むしろ)。「むしろ」とは、(わら)やイグサなどの(くさ)()んだ敷物(しきもの)(こも)とも。
【原文】那覇西邑北濱有一闊窟深遮風雨似乎人屋遠隔村家外植樹木無有人知由是往昔之世有博徒者多聚于此竊爲博賭以爲戲玩因名此窟曰博奕屋至于近世岩石敗崩半有其窟昔時石門至廣嚴寺兩邊夾路有松樹百五十六顆其中一株最秀枝葉翳翳濃陰重重上栖白雲下休行客遠望如席近觀似幕故曰平松今名其地曰平松


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