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~琉球沖縄に伝わる民話~

新訳球陽外卷(きゅうようがいかん)遺老(いろうせつでん)』第8話

(にいぶい)(むし)次良(じらあ)




 (とお)(むかし)時代(じだい)首里(しゅり)にひとりの一風変(いっぷうか)わった不思議(ふしぎ)(おとこ)がおりました。
 その()次良(じらあ)といいました。
 (かれ)父母(ふぼ)(とし)高齢(こうれい)で、家業(かぎょう)細々(ほそぼそ)(いとな)んでいましたがうまく()かず、いよいよ貧乏(びんぼう)生活(せいかつ)()ちゆかなくなって、その()食事(しょくじ)事欠(ことか)くことさえありました。
 その(うえ)老夫婦(ろうふうふ)息子(むすこ)次良(じらあ)が、愚鈍(ぐどん)(うえ)に、(ひど)い、ものぐさで、何一(なにひと)仕事(しごと)をしません。
 十八(さい)になっても、両親(りょうしん)(おし)えを(まった)()こうとせず、また(おや)苦労(くろう)(かえり)みようともしないで、昼夜(ちゅうや)()わず(ねむ)ってばかりいるのでした。
 そして()いた母親(ははおや)食事(しょくじ)用意(ようい)すると、()まって次良(じらあ)(ねむ)りからさめて、()()して()食事(しょくじ)(たい)らげ、()()わると()ぐにまた(ねむ)り、毎日(まいにち)(なに)もしないで無駄(むだ)()ごしていました。
 そんなですから世間(せけん)人々(ひとびと)はみんな次良(じらあ)軽蔑(けいべつ)し、また馬鹿者(ばかもの)(あざけ)(わら)って、(だれ)もが「(にいぶい)(むし)次良(じらあ)」と()ぶようになったそうです。
 そのことに老夫婦(ろうふうふ)大変(たいへん)(おこ)って、世間(せけん)(きら)って(ひと)との(まじ)わりを()けるようになりましたが、また次良(じらあ)をどこか(とお)()にやってしまおうとした(こと)もあり、それでもいかんせん年老(としお)いて(さず)かった息子(むすこ)(たい)する溺愛(できあい)ぶりは(はなは)だしく、(あま)やかして(なに)()()てずに先延(さきの)ばしすることがずっと(つづ)いていました。
 すると次良(じらあ)は、ある()のこと(つい)(ひと)つの奇策(きさく)(おも)いついて、行動(こうどう)()こそうと、()いた父親(ちちおや)(とお)くまで出掛(でか)ける機会(きかい)をじっと()(つづ)け、(ちち)出発(しゅっぱつ)するなり、次良(じらあ)(はは)()かって()うことには、
 「お(かあ)さま。(わたくし)(こころ)奥底(おくそこ)から唯一(ゆいいつ)()しいと(おも)っているものは白鷺(しらさぎ)なのであります。
 どうかお(かあ)さま、(わたくし)のために、白鷺(しらさぎ)一羽(いちわ)()って、それを(わたくし)(あた)えて(くだ)さるなら、()(ねが)いはあと(すこ)しで(かな)うのであって、それだけの()うちもあるのです。」と。
 そこで()いた(はは)息子(むすこ)白鷺(しらさぎ)()しがる理由(りゆう)質問(しつもん)すると、次良(じらあ)は、ただ(だま)ったまま(くち)(ひら)こうとしません。
 (つづ)けて(はは)息子(むすこ)()うことには、
 「()()(ひど)貧乏(びんぼう)なのであり、どうして白鷺(しらさぎ)()って、お(まえ)にあげる(こと)など出来(でき)るでしょうか。いや、できはしません。」と。
 そうはいってみたものの()いた(はは)はまた(やさ)しく(たず)ねることには、
 「次良(じらあ)、お(まえ)(からだ)(よわ)くて普通(ふつう)成人(せいじん)(からだ)(すこ)しも()ていません。
 もしも突然(とつぜん)(わか)くして()んでしまうような(こと)にでもなれば、(おそ)らく(わたくし)()やんでも()やみきれないことでしょう。」と。
 そう()()わると(はは)はほうぼうを(たず)(ある)いてお(かね)工面(くめん)し、人目(ひとめ)()け、ある山小屋(やまごや)まで()って、自分(じぶん)()わってそこの(もの)白鷺(しらさぎ)一羽(いちわ)()(もと)めさせると、それを息子(むすこ)(あた)えて(ねが)いを(かな)えてあげたのでした。
 次良(じらあ)はそれを(こころ)から感謝(かんしゃ)しつつ(おお)いに(よろこ)び、白鷺(しらさぎ)(かく)して(だれ)にも()せませんでした。
 そしてある(よる)深夜(しんや)(こと)次良(じらあ)(とな)りに()むお金持(かねも)ちの(いえ)(もの)(たち)全員(ぜんいん)寝入(ねい)るのをじっと(ぬす)()しながら()ていて、それから白鷺(しらさぎ)(ふところ)()れ、仙人(せんにん)格好(かっこう)をすると、こっそり隣家(りんか)庭先(にわさき)にある(おお)きなガジュマル)大木(たいぼく)によじ(のぼ)って、声高(こえたか)らかに何度(なんど)金持(かねも)ちの主人(しゅじん)()(さけ)んで()うことには、
 「()ぐさま(にわ)()てきて、そして(てん)(かみ)言葉(ことば)()きなさい。」と。
 お金持(かねも)ちの夫婦(ふうふ)は、正気(しょうき)(うしな)うほど(おどろ)き、(あわ)てふためきながら(にわ)()()して()ました。
 すると次良(じらあ)は、(おお)きいガジュマルの()(うえ)から夫婦(ふうふ)()うことには、
 「(わたし)人間(にんげん)などではない。(いま)ここに、天帝(てんてい)から御命令(ごめいれい)(うけたまわっ)てあなたの(いえ)にこうして(わたし)天降(あまくだ)りし、お前達(まえたち)にお(さと)しを()げるのだ。
 お前達(まえたち)は、養子(ようし)をとることもなく、ただただ一人(ひとり)(おんな)()(さず)かったのは、運命(うんめい)である。
 だからそれを(けっ)して(おこ)ったり(うら)んだりしてはならない。
 お前達(まえたち)一人娘(ひとりむすめ)は、今年(ことし)で十六(さい)になるので、(はや)許嫁(いいなずけ)()めることによって(おお)きな(よろこ)びとすべきである。
 ()ぐさまお前達(まえたち)(むすめ)を、あの次良(じらあ)(とつ)がせて、そしてあなた(がた)家業(かぎょう)()がせ、同時(どうじ)にあの次良(じらあ)両親(りょうしん)(まね)いてあなた(がた)(いえ)()きとって(やしな)い、天寿(てんじゅ)(まっと)うさせてあげるのだ。
 (いま)次良(じらあ)は、人々(ひとびと)から馬鹿(ばか)にされているけれども、(かれ)(こころ)誠実(せいじつ)であり、頭脳明晰(ずのうめいせき)であるから、後々(のちのち)(かなら)ずきっと(いえ)(おお)いに(さか)えさせることだろう。
 くれぐれも(うたが)ってはならない。
 もしも(かみ)のお()げに(そむ)いて、婚姻(こんいん)日時(にちじ)()()ばすようなことでもしようなら、(けっ)して()ける(ばつ)(かる)くはないぞ。」と。
 するとお金持(かねも)ちの夫婦(ふうふ)は、何度(なんど)(ひざまず)いて(おが)みながら()(こと)には、
 「(おさな)(むすめ)は、()まれつき理解(りかい)判断(はんだん)(はや)く、また容姿(ようし)容貌(ようぼう)(うつく)しいため、沢山(たくさん)から素晴(すばらし)縁組(えんぐ)みの(はなし)があって何度(なんど)となく婿(むこ)(えら)ぼうとしてきましたが、(いま)まで一度(いちど)結婚(けっこん)(ゆる)せる(ひと)はいませんでした。
 ただ(いま)(てん)(かみ)のお言葉(ことば)(うけたまわ)り、感激(かんげき)すること、この(うえ)もございません。
 したがいまして(てん)からのお(さと)しを(かた)(まも)って、(すこ)しも(たが)うようなことはいたしません。」と。
 (あるじ)はそう()いながら一層(いっそう)深々(ふかぶか)(こうべ)()れながらお(れい)(もう)しあげたのでした。
 それを()いて次良(じらあ)()うことには、
 「(わたくし)はこれから、天帝(てんてい)宮殿(きゅうでん)(もど)り、そして(こと)次第(しだい)(もう)()げることにしよう。」と。
 次良(じらあ)はそう()()わるやいなや白鷺(しらさぎ)(そら)()かって()(はな)ち、その()から()()らせたのでした。
 (かみ)白鷺(しらさぎ)となって()()るのを()()たりにしたと勘違(かんちが)いした金持(かねも)ちの夫婦(ふうふ)はますます尊敬(そんけい)(ねん)(いだ)いて(しん)()み、()にひれ()して丁寧(ていねい)(れい)(おこな)(つつ)しんで見送(みおく)ると、とうとう(いえ)(なか)(はい)ってそのまま()てしまいました。
 次良(じらあ)は、自分(じぶん)計画通(けいかくどお)りにうまくいったのを(おお)いに(よろこ)び、こっそり()から()りると、自分(じぶん)(いえ)(かえ)って()ました。
 翌朝(よくあさ)、お金持(かねも)ちの夫婦(ふうふ)は、自分(じぶん)(みずか)次良(じらあ)(いえ)訪問(ほうもん)して、(かれ)父母(ふぼ)()かって()うことには、
 「私共(わたくしども)(むすめ)乙鶴(おとつる)は、年齢(ねんれい)が十六(さい)になりました。しかしながらまだ結婚(けっこん)相手(あいて)()まっておりません。
 次良(じらあ)さんにお(ねが)いしたいことがあって、それは私共(わたくしども)(むすこ)婿(むこ)()(いただ)き、そして(わたくし)家業(かぎょう)()いで(いただ)いて、(くわ)えてあなた(がた)夫婦(ふうふ)私達(わたくしたち)屋敷(やしき)にお(まね)きして(のこ)りの人生(じんせい)面倒(めんどう)をみさせて(いただ)くために、どうか両家(りょうけ)(えん)(むす)んで()しいのです。」と。
 その(もう)()()いた次良(じらあ)父母(ふぼ)大層(たいそう)(おどろ)いて、この(はなし)(いぶか)しく(おも)って()うことには、
 「(せがれ)次良(じらあ)は、ご存知(ぞんじ)(とお)りの(なま)(もの)で、(ひる)(よる)()てばかりで、(なに)(ひと)仕事(しごと)らしいことをしたことがありません。
 ましてや、(ふたた)びまた(ひと)から(わら)われるに(ちが)いないことは、次良(じらあ)普段(ふだん)素行(そこう)から()かりきっています。
 もちろん私共(わたくしども)次良(じらあ)(おや)であり、また(かれ)(こと)を、(おも)(なや)んで心配(しんぱい)ばかりしてきたのも(たし)かです。
 どんな理由(りゆう)があって今回(こんかい)のお(もう)()をおっしゃっているのでしょうか。
 さらにまた、私達(わたくしたち)二名を、あなたの屋敷(やしき)(まね)いて(くだ)さって、(なさ)(ぶか)くも(やしな)って(いただ)けるとのお(もう)()、まことには(しん)(がた)いことです。」と。
 その(もう)()については()(かた)()たって(くだ)さいと次良(じらあ)両親(りょうしん)(かた)(こと)わり、()らないとはいえ(まった)くもって天帝(てんてい)(めい)(したが)おうとはしません。
 金持(かねも)夫婦(ふうふ)()うには、
 「どうしてわざわざあなた(がた)のようなお年寄(としよ)りを、(だま)そうとしたりなどしましょうか。」と。
 それから天帝(てんてい)(めい)について、昨夜(さくや)(かみ)使者(ししゃ)天降(あまくだ)りし、自分達(じぶんたち)にお(さと)しの(はなし)をしたいきさつを、()()いた(こえ)一部始終(いちぶしじゅう)(くわ)しく(かた)って()かせたのでした。
 次良(じらあ)両親(りょうしん)は、その(はな)()くと、(はじ)めてお金持(かねも)ちからの(もう)()(はなし)(しん)じ、(こころ)から(よろこ)んで()ぐに結婚(けっこん)(ゆる)したのでした。
 その()吉日(きちじつ)(えら)び、その()婚姻(こんいん)(れい)のために準備(じゅんび)をし、お金持(かねも)ちは次良(じらあ)(むすめ)(めと)らせ、そして自分達(じぶんたち)家業(かぎょう)()がせ、同時(どうじ)(かれ)両親夫婦(りょうしんふうふ)屋敷(やしき)(まね)いて(やしな)ったのでした。
 これより(あと)次良(じらあ)は、(こころ)(おこな)いを(ただ)して(あやま)ちも(あらた)め、()(こと)沢山(たくさん)(おこな)い、そして(かれ)家業(かぎょう)(いま)まで以上(いじょう)繁盛(はんじょう)したのでした。
 (ひと)はみなそれを不思議(ふしぎ)(おも)って()うことには、
 「次良(じらあ)は、これまでずっと、(おろ)かで道理(どうり)(くら)く、()てばかりで仕事(しごと)(こと)()らなかった。
 それなのに(いま)は、聡明(そうめい)才能(さいのう)があって(おお)きな幸福(こうふく)(さず)かる(ひと)になれたのは、(かんが)えてみると絶対(ぜったい)祖先(そせん)人徳(じんとく)(たか)いからに(ちが)いなく、立派(りっぱ)祖先(そせん)初代(しょだい)苦心(くしん)して仕事(しごと)(はじ)めて後々(のちのち)まで継承(けいしょう)させたため、(かみ)(てん)から次良(じらあ)(たす)けたのであり、先祖(せんぞ)(おこな)いに(むく)いるために幸福(こうふく)次良(じらあ)(さず)けたのでもあり、そしてこの一族(いちぞく)繁栄(はんえい)のためにつかわされた(もの)こそ次良(じらあ)なのであろう。」と、そう(つた)わっています。



 
※注や解説

往昔(おうせき)】~()()った(むかし)大昔(おおむかし)往古(おうこ)昔々(むかしむかし)(はる)(むかし)(いにしえ)
首里(しゅり/しゅい/すい)】~「首里(しゅり)」の以前(いぜん)発音(はつおん)は「すい/しゅい」など。
奇怪(きかい)(てき)(ひと)】~「奇怪(きかい)」は、常識(じょうしき)では(かんが)えられないほど(あや)しく不思議(ふしぎ)なこと。また、そのさま。常識外(じょうしきはず)れ、合点(がてん)がゆかないこと。原文(げんぶん)の「的」は「の。のような。に(かん)する」の()。「奇怪(きかい)(てき)(ひと)」とは挙動(きょどう)常人(じょうにん)とは(こと)なる(ひと)
()の】~「他」=「彼」。かの。あの。
蕭条(しょうじょう)】~ひっそりと、もの(さび)しいさま。
燃眉(ねんび)】~(まゆ)()えることから、危険(きけん)危機(きき)(せま)っていることの比喩(ひゆ)。ぜんび。燃眉(ねんび)(きゅう)。「燃眉(ねんび)(よう)」を()き」で、貧乏(びんぼう)でどうにもならない、いよいよ()(せま)った生活苦(せいかつく)状態(じょうたい)
餐食(さんしょく)】~食事(しょくじ)
愚昧(ぐまい)】~(おろ)かで道理(どうり)(くら)いこと。また、そのさま。
【懶】~音読み「ライ/ラン」、訓読み「ものうい/おこたる」。物臭(ものぐさ)。何かするのを面倒がること。またそのような性質や人。無精(びしょう)
【怠】~音読み「タイ/ダイ」、訓読み「なまける/おこたる」。(こころ)(たる)んで(なま)ける。
(すこ)しも】~すこしも。
()す】~「ナス」。する、の()
労苦(ろうく)】~苦労(くろう)
伙食(かしょく)】~食事(しょくじ)御飯(ごはん)
(すなは)ち/則ち/乃ち/便ち/就ち(すなわち)】~現代仮名遣(げんだいかなづか)いでは「すなわち」。()いかえれば。つまり。とりもなおさず。まさしく。その(とき)は。そうすれば。その(とき)(むかし)。あの(ころ)当時(とうじ)即座(そくざ)に。()ぐに。たちまち。もう。(すで)に。
受用(じゅよう)】~()けいれて(あじ)わい(たの)しむこと。
空々(そらぞら)として()(わた)る】~毎日(まいにち)(なに)もしないで、あるいは、ろくな(こと)もせずに、無駄(むだ)()ごす。
(あなど)る】~=(あなど)る。軽蔑(けいべつ)する。
厭棄(えんき)】~(いと)(うとん)じる。「厭」は、世俗(せぞく)(きら)って(はな)れる。「うとんじる」は、(いや)だと(おも)う。(きら)って(とお)ざける。
流放(るほう)せんとす】~流罪(るざい)にしようとする。原文「要流罪」の「要」は「・・・・・・せんとす」。
挨延(あいえん)】~ぐずぐずすること。先延(さきの)ばしすること。
一奇(いっき)(ぼう)】~「謀」は、はかりごと。物事がうまくゆくように、前もって考えた手段・方法・計画。計略。もくろみ。「一奇(いっき)(ぼう)」は、奇策(きさく)(ひと)つの()わった策略(さくりゃく)
白鷺(しらさぎ)】~はくろ。コウノトリ(もく)サギ()(とり)のうち、全身(ぜんしん)白色(はくしょく)のものの総称(そうしょう)日本(にほん)では通常(つうじょう)、ダイサギ・チュウサギ・コサギ・アマサギを()す。
買得(かいどく)】~(もの)()()ること。
(なんぞ)】~「なんぞ」。
(なんじ)】~「なんじ」。
()へらく】~「()ったことには」の意。
()ず】~「像」=「似」。
夭死(ようし)】~年齢(ねんれい)(わか)いうちに()ぬこと。若死(わかじ)に。夭折(ようせつ)
追悔(ついかい)】~(こと)()んだ(あと)になって()やむこと。後悔(こうかい)
(あまね)く】~「(あまね)く」とも。もれなくすべてに(およ)んでいるさま。(ひろ)く。一般(いっぱん)に。
()り】~。「挪」は「カル」。「挪」=「借」。()りること。
(ひと)(はっ)して】~「人目(ひとめ)()けて」の意。
(きゅう)する】~(あた)える。
便(べん)する】~便利(べんり)なようにする。役立(やくだ)てる。
(かく)して】~「蔵」=「隠」。
更深(こうしん)】~()()ける。夜更(よふ)け。深夜(しんや)
偸看(とうかん)】~(ぬす)()るの意。
神仙(しんせん)】~不老不死(ふろうふし)で、神通力(じんつうりき)をもつ仙人(せんにん)
榕樹(ようじゅ)】~ガジュマルの別名(べつめい)
(はん)ぢて】~よじ(のぼ)って。
火速(かそく)】~(はなは)だしく(きゅう)なこと。火急(かきゅう)
夢中(むちゅう)】~物事(ものごと)熱中(ねっちゅう)して(われ)(わす)れること。また、そのさま。(ゆめ)()ている(あいだ)(ゆめ)(なか)正気(しょうき)(うしな)うこと。また、そのさま。
驚訝(きょうが)】~(おどろ)(あき)れるさま。意外(いがい)さに(おどろ)くさま。
慌忙(こうぼう)】~(あわ)ただしいこと。(あわ)てること。また、そのさま。狼狽(ろうばい)
諭知(ゆち)】~告諭(こくゆ)して知悉(ちしつ)せしめること。
(めい)なり(すう)なり】~運命(うんめい)
(もっ)て】~(漢文(かんぶん)訓読(くんどく)(もっ)て」に(おな)じ)。そして。(それ)によって。(それ)について。(それ)をもちいて。((おお)く「…をもって」の(かたち)格助詞(かくじょし)のように使用(しよう))・・・・・・て。・・・・・・で。・・・・・・でもって。・・・・・・によって。・・・・・・の理由で。・・・・・・により。・・・・・・に。・・・・・・の(うえ)に。・・・・・・に(くわ)えて。・・・・・・の(うえ)に。・・・・・・かつ。・・・・・・しながら。
伶俐(れいり)】~(あたま)(はたら)きが(すぐ)れていて(かしこ)いこと。聡明(そうめい)
遅悞(ちご)する()かれ】~誤解(ごかい)してはならない。()(ちが)えてはいけない。
捱延(がいえん)】~()()ばす。
賦性(ふせい)】~天賦(てんぶ)性質(せいしつ)()まれつきの性質(せいしつ)天性(てんせい)
敏捷(びんしょう)】~理解(りかい)判断(はんだん)(はや)いこと。また、そのさま。
女婿(じょせい)】~(むすめ)(おっと)。むすめむこ。
凜遵(りんじゅん)】~おそれ(したが)って。(かた)(まも)って。
俯伏(ふふく)】~(こうべ)()れてうつむくこと。(おそ)()ること。
天宮(てんきゅう)】~天帝(てんてい)宮殿(きゅうでん)。てんぐう。
復命(ふくめい)】~命令(めいれい)()けた(もの)が、その経過(けいか)結果(けっか)報告(ほうこく)すること。
愈愈(いよいよ)】~「(いよいよ)」「弥弥(いよいよ)」とも。いよいよ。ますます。とうとう。(たし)かに。本当(ほんとう)に。その時期(じき)(せま)っているさま。(まえ)よりも程度(ていど)(はなは)だしくなるさま。
叩首(こうしゅ)】~清代(しんだい)敬礼(けいれい)の一つで、(くらい)(たか)(ひと)謁見(えっけん)する(さい)(れい)(あたま)()につけて丁重(ていちょう)挨拶(あいさつ)する(れい)。ここでは、()にひれ()して丁寧(ていねい)(れい)(おこな)ったの()
拝送(はいそう)】~見送(みおく)ることの()謙譲語(けんじょうご)(つつし)んで見送(みおく)ること。
(みずか)ら】=(みずか)ら。
定親(ていしん)】~結婚(けっこん)をとりきめること。
()きて】~(まね)いて。
(また)】~「我れ父母也・・・・・・」の「也」は「また」。
愁憂(しゅうう)】~「愁」も「憂」も「うれう」の()で、(おも)(なや)む。心配(しんぱい)する。
貴府(きふ)】~「府」は屋敷(やしき)邸宅(ていたく)。ここでは、あなたの屋敷(やしき)()
垂憐(すいれん)】~(なさ)けをかけること。
推辞(すいじ)】~()(ひと)(ゆず)って自分(じぶん)辞退(じたい)すること。
(はじ)めて】~()めて。
吉辰(きっしん)】~よい()。めでたい()吉日(きちじつ)
従前(じゅうぜん)】~(いま)より(まえ)。これまで。以前(いぜん)
伶俐(れいり)】=「怜悧」~(あたま)(はたら)きが(すぐ)れていて(かしこ)いこと(さま)。聡明(そうめい)
能幹(のうかん)】~才能(さいのう)がある。
介福(かいふく)】~(おお)きな幸福(こうふく)
先世(せんぜ)】=「前世(ぜんせ)」に同じ。
8「(しく)」~「シク」
(ぎょう)(はじ)(とう)()る】~創業垂統(そうぎょうすいとう)立派(りっぱ)祖先(そせん)一代目(いちだいめ)苦心(くしん)して仕事(しごと)(はじ)めて、その仕事(しごと)後々(のちのち)まで継承(けいしょう)されるように(つた)えること。
(たす)け】=助け
然/爾(しか)言/云()()】~「云爾(しか)言/云()()」とも。末尾(ぶんまつ)などに()き、上述(じょうじゅつ)(とお)り、という()
【原文】往昔之時首里有一奇怪的人名曰次良他父母年高家業蕭條燃眉缺用不足日供餐食然而他次良愚昧懶怠竝不作産業年至十八歳不聽父母之敎訓不顧父母之勞苦晝夜貪眠老母親炊伙食次良睡起就吃吃完就睡而受用飲食空空度日人皆欺之又笑之叫曰睡蟲次良父母大怒而厭棄他要流放遠地奈愛情甚溺挨延數月次良忽起一奇之謀伺俟老父出門遠行向老母曰小兒所深要者白鷺也懇乞老母爲小兒買得一隻以爲給與我願已足矣老母問他要白鷺之縁由次良黙然無言即謂他曰家甚貧乏那有價錢買得給你老母亦意謂次良身體柔弱不像成人若一旦夭死恐有追悔遍揶價錢撥人往山舍代買白鷺一隻以便給他次良深喜大悦深藏白鷺不與人而看一夜更深偸看鄰居富家人皆睡去懷抱白鷺裝扮神仙容貌密攀庭前大榕樹高聲大叫富家主曰火速出庭以聽天帝敕諭富家夫婦夢中驚訝慌忙出庭次良自他樹上曰予非人閒也今奉玉皇之命降臨汝宅諭知汝等汝不養兒子只生一女者命乎數也不足怒怨而汝一女年今十六歳可早婚定以得洪禧則將其女娘嫁他次良以繼汝家統且招移他父母養於汝家以終天年矣今次良雖爲人見欺他内衷誠實伶俐明白至於後日必有大昌榮勿以遲悞若有違此諭捱延日久決然獲罪非輕富家夫婦再三跪拜曰小女賦性敏捷容貌艶美多有氷媒而遴選女婿未曾許人今蒙天帝敕諭感激無地隨就凛遵天諭不敢有違俯伏稱謝次良曰吾回天宮可以復命即放白鷺向空而飛去富家夫婦愈加尊信叩首拜送遂入家内而睡去次良大悦騙得完竣自樹上而降回來自家翌朝富家夫婦親到次良之家向他父母曰小女乙鶴年至十六歳未成定親願請次良爲余女婿以嗣家業且延汝等夫婦於吾家供養一生以結兩家之縁次良父母大驚奇之異之曰小兒性情怠惰晝夜睡眠不作一事業況復爲人被笑汝之所素知也我父母也愁憂他何故有出此語也哉又是我等二名招到貴府垂憐飼養之言難以遵信固以推辭不敢從命富家夫婦曰豈敢騙欺汝老身乎將其昨夜天使降臨諭知吾等之事低聲密細告説一遍次良父母聽其事纔信其言心中歡喜即許定親後選吉辰乃備婚姻之禮以爲娶嫁遂嗣家統竝招他夫婦供養富家自此之後次良修心改過克行善事以興他家人皆奇之曰次良從前愚昧甘睡不知産業而今伶俐能幹以承介福者想必先世祖宗樹德種仁創業垂統自天祐之報之以福以致此家庭昌榮者哉云爾


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ルミさん、はいさい、今日、拝なびら。

前に僕が訳したのが、一般に出回っている『『睡虫次良』の話で、
今回は原文を訳して、原作に近い訳になっているので、
恐らく誰も聞いたことがない、訳になっています。

何しろ厄介なのが、
基本は、確かに漢文・白文を訳しているのですが、
時々、単語が漢文でなく、古い中国語の単語が入ってくるので、
そのたびに、止まってしまい、困っています。

日本中に伝わる、
三年寝太郎(さんねんねたろう)は日本の民話の一つで、
三年間、眠り続ける、ただの怠け者の男が、
突然、起き出した末に、大きな灌漑をして村を旱魃から救う話で、
全国に、色々な似た話が残っています。

ただ『睡虫次良』は、『三年寝太郎』と、かなり違う話です。
『御伽草子』の「物くさ太郎」や、
最も古い『宇治拾遺物語集』の「博打聲入の事」とも違う気がします。

だから、琉球の民話は楽しいです。

体調の方ですが、治ったり、またぶり返したりの繰り返しで、
仕事も忙しいので、のんびり続けていきま~す。
ではでは。
Posted by 横浜のtoshi横浜のtoshi at 2012年07月01日 06:00


横浜のtoshiさん
おはようございます

体調もPCも 元気復活
良かったですね

この『ニーブイ虫 ジラー』の昔ばなしは

以前(10年?前)に
読んだ事がありましたが、

忘れかけていました

先ほど、その
『沖縄のむかしばなし(1)』を本棚から引っ張り出して
読み返してみましたよ(笑)。

ニーブイ虫ジラー

あっぱれ

ですね。


それにしても、

原文は、

漢字ばかりで大変な翻訳?作業ですね

その、根気強さに
さすが!
toshiさんと思いました。

あまり、ご無理なさらずに、お身体もご自愛くださいませ。


楽しく読ませていただきました。

いつの日か(笑)孫が
出来ましたら、

このお話は読み伝えて行きたいと思いました

ありがとうございます。
Posted by ルミ at 2012年07月01日 01:54


Jin さん、はいさい、今日拝なびら。

PCが1台、調子が悪くなるところから始まって、
久しぶりに、重い風邪を引いてしまって、一進一退で大変でした。
まだ治りませ~ん。(涙)
Posted by 横浜のtoshi横浜のtoshi at 2012年06月28日 10:10


三河の嫁さん、はいさい、今日拝なびら。

前回のコメント、ありがとうございました。
やっと普通に風邪を引いている状態まで戻りました。
インフルエンザでなかっただけ、マシでした。
感謝
Posted by 横浜のtoshi横浜のtoshi at 2012年06月28日 10:05


仲本勝男さま、はいさい、今日拝なびら。

前回のコメント、いっぺー、にふぇーでびる。
私は、久しぶりに酷い風邪をひいてしまい、
といって、休めないほど忙しい日々なので、
マスクをして休まず出勤し続け、先週末は2日間、寝込んでいました。
なかなか、風邪が抜けきれません。

仲本さんも、腰、お大事にして下さいね。

陳と梁のお話、面白く読ませて頂きました。
感謝
Posted by 横浜のtoshi横浜のtoshi at 2012年06月28日 10:03


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