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~琉球沖縄に伝わる民話~
新訳『球陽外卷・遺老說傳』第35話
普天間権現
普天閒の東に、一つの洞窟があります。
村の人々は、いつも農具をここに置いてました。
ある日のこと、磁器製の観音像があって、これを石壇の上に安置しました。
どこの人が洞窟の中に観音像を尊みつつしんで安置したのか誰も知りません。
直ぐ隣り村の人まで伝わって、大いにこれを不思議なこととし、深く尊んで信仰するようになりました。
それに加えて祈願したい人がいると、必ずこの地にやってきては祈禱しました。
するとたちまち霊験・灼で、非常に早く願いが叶ったといいます。
後にまた安谷屋村に一組の夫婦がいたそうです。
常に農業を勤しみ、脇目もふらずその仕事に励んできたのは以前からのことで、自分たちの使命を果たしているだけだと考えてきました。
しかしながら五穀の収穫は思うように上がらず、課税の分に欠くことさえ多かったのでした。
そういうわけで、ある時、妻は、夫にお願いして言うことには、
「私の、身を他家に売り、そしてそのお金で税を納めましょう。
もしも、主人の仕事を済ませて少しの暇でも出来たなら、糸を紡ぐのに役立てて、それで自分の身を買い戻します。
お願いですから、あなたは、力を田畑に尽くして、そして家の財産を貯えて下さい。
そしてもしも天から、慈悲を頂戴して大きな幸いを下さって、そして私が請け出されたなら、再び夫婦となって仲睦まじく老いを偕にしながらいつまでも一緒に暮らし、そして天寿を全うしましょう。」と。
夫婦は涙を流して別れたのでした。
とりもなおさず妻は我が身を首里に売り、そしてある人の召使いになったのでした。
そして時々髪を切り、添え髪である入髪を作って、これを町中に持って行って売り、そして祭礼の供え物を買って、毎晩・普天閒に行って焼香しながら神さまに願かけをしたのでした。
三、四年の年月が流れたある九月の間の、ある晩のこと、たった独りで普天閒に向かって歩いて行き、結彩門(俗に鳥居と呼ぶ)の辺りに行き着いた時に、偶々・一人の老人に出逢ったのでした。
女性は非常に驚いてその場から立ち去ろうとしました。
すると老人が言うことには、
「そんなに驚く必要はありません。
私は、貴方にお願いしてこの品物を見張っていて欲しいだけなのです。」と。
婦人が言うことには、
「私は、人の召し使いです。
今、心に願うところがあってここにおります。
ご主人様の仕事を済ませたわずかの時間をやりくりして、こうして神社に参拝しています。
もしも速やかにお参りしてここを去って戻らなければ、恐らく戻らない罪を身に負うことになるでしょう。」と。
そう言って、再三、固く辞退しました。
しかし老人は、無理矢理、婦人にお願いしてこの品を委ねたのでした。
婦人は、仕方無くその品を見守ることになりました。
そして老人は、ついにその場を立ち去ると、そのままゆくえ知れずになってしまいました。
そこで仕方無く、とりもなおさず婦人はその品物を携えて首里に帰ったのでした。
その後、しばしばその品物を携えて普天閒へ行き、品を老人に返そうとしましたが、二度と再び老人に再会できません。
婦人は、結局その老人にどうしても会いたいと思って、普天閒の社に参拝して、心からお願いしました。
するとその晩、婦人に夢の中でお告げがあって、言うことには、
「神である私が、貴方に授けようと考えて、特別なこの品物を持って天から降臨して貴方に託したのです。」と。
時あたかも、夜明けを告げる一番鶏が羽ばたき、人々の目を覚まさせました。
夢から覚めてみたもののまだ何のことか夢の記憶ははっきりしません。
次の晩も、またお祈りすると、案の定、見る夢は、昨晩見た夢と、少しも異なるところがなく、その品が神様からの授かり物であるのは明らかなようです。
こういうわけで、預かり物を開封して見てみると、中には黄金の塊がいくつも有ったのでした。
その黄金で、直ぐに身請けしようとしましたが、なにしろ仕えていた主人の家には、他に召使いがなく、そのため暇を貰い難くてしかたがありません。
そうこうしているうちにまた二年の月日が過ぎてしまいました。
ついに婦人は普天閒の神より賜わった事を、詳しくつぶさに主人に告げ、そして黄金で借金を返済したのでした。
そしてかれこれする間に、大いなる神様に対して、願いを叶えて頂いたお礼参りをして、そして石の厨子を造って寄進し、観音をその中に謹んで安置したのでした。
それからしだいに家は栄えて財産が豊かになり、子孫も繁栄して、夫婦は年をとるまでいつまでも仲睦まじく共に暮らしたそうです。
こういうわけで遠くの人から近くの人まで、もれなくすべての人がその夫婦の話を聞き及んで、多くの人々がこの普天閒にやって来ては祈願するようになったのだそうです。
ところでそれとは別の話もあって、首里の南風之平等・桃原・邑に、一人の処女がおりました。
貞節なうえに落ち着いた物静かな人であり、容姿は世に並ぶ者がないほど優れていたそうです。
人はみなこの話を聞き、なかには人を介して彼女に求婚する者も後を絶ちませんでしたが、彼女は婚約を決して承諾しません。
そんなでしたから言うまでもなくなおさら寝室にばかりいるようになり、窓を閉じて出入り口も塞いでしまい、人に見られないようにしていました。
ところで彼女にはまた、一人の妹がいて、成人して、ある家に嫁ぎました。
その夫は、妻の姉を不思議がって、ついに妻に告げて言うことには、
「貴方の姉は遠く人目を避け、全く外に出ないといいます。
ただ自分は、今・貴方の夫ですから、対面したところで何も問題ないとおもいます。
どうかお願いですから、貴方のお姉さんを一目だけでも見させて下さい。」と。
すると妻が言うことには、
「私の姉の意志は、世間から離れてひっそりと静かに暮らしたいというものであって、世間一般の人の感情とは似ていないのです。
もしもこの事を私が姉に話すと、きっと何かにかこつけて断り、姉は貴方とは二度と会うのを許さなくなってしまうことでしょう。
そこで、今日、私は実家に行って、姉と話をしていますから、その時の最も確実な頃合いを見計らって、何気なくその席にやってきて、そして一目見たら、父の家から立ち去りなさい。」と。
そして、妻の実家で姉妹が話をしている間、確に予定通りに夫は妻の言葉に従い、何気なくやって来て、一目見るのに成功したのでした。
しかし姉は直ぐに妹の夫に見られたことを恥じて、家の外へ飛び出すなりそこを離れてどこかへ走り去ってしまったのでした。
家の者達も追いかけて行きました。
姉は普天閒に到着すると、直ぐに洞内に入って行ったのでした。
家の者達も、洞窟まで追いかけて行って姉を探し回ったのですが、彼女の消息はまったくわからなくなりました。
こういうわけで人々はみな、崇め敬って彼女を神として崇拝するようになり、切実な願いがあると、必ずここにお詣りして福を祈るようになったということです。
この二つの話が伝わっていますが、年月を経てすでに遠い昔の話であり、従って今となっては詳しく調べることが出来ません。
※注や解説
【普天閒邑】~宜野湾間切普天閒邑。正式な社名は普天満宮、別称が普天満権現、一般的には普天満神宮などと呼ばれる。普天閒、普天満、両方の表記がみられる。「邑」は「村」に同じ。
【農器】~「農具」に同じ。農作業に使用する器具。鍬・鋤・犂・鎌など。
【放在す】~「放」は、置く、置いたままにする、の意。「在」は、ある、の意。
【一日】~ある日、先日、の意。
【観音の磁像】~磁製の観音像。磁製は磁器製。『由来記』には、「焼物観音像」とある。また『琉球国旧記』には、「洞内に、白鶴岩、明王岩、神亀岩、鷹居岩等、凡そ、八個の霊石がある」とある。垂れ下がる鍾乳石に覆われる聖霊の地として昔から尊ばれてきた。普天閒宮は、琉球八社/沖縄八社の一つ(金武宮・普天閒宮・天久宮・波上宮・沖宮・安里八幡宮・識名宮・末吉宮)。拝殿背後、一大鍾乳洞内の小社に権現が奉納される。現在は拝殿横の授与所で申し込むと洞窟内を見学できる。なお、俗に権現屋敷といわれる普天閒権現誕生の地は、首里桃原町1丁目23番地。なおこの話については『由来記』「普天満山三所大権現縁起」、および『旧記』「普天満山之社並神宮寺」参照。
【石壇】~石を敷きつめて造った壇。
【奉安】~尊いものを謹んで安置すること。
【即/則/乃/便/就ち(すなわち)】~現代仮名遣いでは「すなわち」。言いかえれば。つまり。とりもなおさず。まさしく。その時は。そうすれば。その時。昔。あの頃。当時。即座に。直ぐに。たちまち。もう。既に。
【隣里】~ 隣りの里。隣村。隣邑。
【奇怪】~第8話「奇怪的人」参照。
【尊信】~尊び信頼すること。また、尊んで信仰すること。
【而して】~「而して」「而して」から転じたもの。漢文訓読に用いられた語。そうして、それに加えて、の意。
【求祈】~「求」は、願う、求める、の意。「祈」は、祈る、願う、の意。
【禱祈】~「祈禱」に同じ。広義には、祈願、祈念、祈り、の意。
【霊験】~人の祈請に応じて神仏などが示す霊妙の不可思議な力の現れ。利益。霊験灼か(「灼か」=著しいこと)。キリスト教でいうところの奇跡を日本では古くから霊験と使ってきた。
【影響より捷し】~影響は疾い喩え。非常に早い喩え。「早=速=疾=捷」
【安谷屋村】~中城間切安谷屋村。この「農婦の身売り」の話から、毎年の台風や乱作による耕作地の荒廃はじめ、貧しい琉球沖縄の古代を知る事が出来、また実際のところはもっと悲惨であったのが想像できる。
【倹勤】~無駄をせず、仕事に励むこと。
【兼ね】~兼ねて。副詞の一語化。以前から。前から。
【全うす】~完全に果たす。完全に終わらせる。
【然れども】~しかしながら。そうだけれども。
【五穀】~五種類の穀物、転じて穀物類の総称にも使う。五種類の穀物とは、通常は、米・麦・粟・黍・豆をいうが、その内容については昔から必ずしも一定していない。
【登る】~「登」は「上」や「昇」に同じ。
【賦税】~ 税を賦課すること。また、その税。課税。
【是/焉に於て】~この時に。こういうわけで。「是于」でも是于」と読む。(「于」の訓読みは「に、において、いく、ああ」。)
【妾】~一人称の人代名詞。女性が自分を謙っていう語。わらわ。わたくし。正妻の他に、愛し養う女性。ひいきにすること。また、その者。めかけ。そばめ。おみなめ。おんなめ。側室、上臈。
【完うせん】~「完うす」は「全うす」に同じで、完全に果たす。完全に終わらせる。それに意志の助動詞がついたもの。
【一点の暇時を得れば】~主家の仕事を済ませて少しの暇でも出来たら。『由来記』には「昼夜主人之日課之暇」となっている。
【紡績】~古くは「ほうせき」とも。糸を紡ぐこと。
【便する】~便利なようにする。役立てる。役立たせる。
【償う】~金品を出して、負債や相手に与えた損失の補いをする。弁償する。
【請乞】~乞い求める。
【良人】~ここは夫のこと。
【田畝】~田圃とも。田畑。家主の田畝。
【家資】~家の資産。家産。財産。身代。
【供す】~備える。ささげる。役立てる。
【洪慈】~「洪」は、大きい、の意。「慈」は、情深い、優しい、慈しむの意。
【賜ふ】~ここでは「もらう」の意の謙譲語。頂く。頂戴する。
【介祉】~大きな幸い。介福。
【贖身】~「贖」は、 請け出す、買い戻す。
【偕老】~老いを偕にする、の意。夫婦が年をとるまでいつまでも仲睦まじく一緒に暮らすこと。
【天年】~ 天から受けた寿命。天寿。
【婢】~女の召使い。下女。はしため。
【剪る】~「剪」は「切・斬・伐・截」に同じ。
【髢】~婦人が髪を結う時に添える毛。添髪。添え毛。入れ髪。琉球沖縄では「入髪」と書いて「いりがん」という。
【為る】~「作る」、「造る」に同じ。
【市上】~ 町中。街頭。市中。
【祭品】~祭礼の供え物。供物。
【毎夜】~毎晩。
【梵香】~焼香する。香をたく。
【許願】~神仏に願をかけること。祈願する。許愿。
【歴閲】~「歴閲」は「閲歴」に同じ。年月など時間が過ぎ去ること。今まで社会的に辿ってきた跡。経歴。履歴。経験すること。
【一夜】~一晩。一夜。ある夜。ある晩。一晩中。夜もすがら。終夜。
【赴く】~「趣く」。ある場所や方角に向かって行く。
【驚駭】~非常に驚くこと。驚愕。
【驚異】~不思議で驚くべきこと。驚くほど素晴らしいこと。
【為す勿かれ】~「為すこと勿かれ」に同じ。してはならない。行ってはならない。する必要はない。
【吾】~私。自分。
【汝】~貴方。
【托す】~自分がなすべきことを他の人に頼む。まかせる。
【斯の】~「此の」に同じ。この。
【看守】~見守ること。また、その人。
【情願】~真心からの願い。
【間暇】~何もすることがないこと。ひま。
【偸む】~「盗む」に同じ。ここでは、わずかの時間をやりくりして、何かをする、の意。
【拝謁】~身分が高い人に面会することを謙っていう語。琉球の王が、群臣に拝謁される儀式そのものも拝謁という。
【獲】~「得」に同じ。ここでは、好ましくないものを身に受ける。
【固辞】~固く辞退すること。
【之れを強ひ之れを勧めて】~無理矢理これを委ねようとした。『由来記』には「強預之故」とある。
【寄在】~委ねる。
【之く所を知らず】~『由来記』には「去不来」とある。
【奈何とも】~(多くが打消を表す語を伴い)どうにも。
【守護】~守ること。
【已むを得ず】~仕方無く。
【厥の】~「其の」に同じ。その。
【屡々/屡ゝ/屢々/屢ゝ】~何度も何度も。度々。しょっちゅう。しきりに。
【去く】~「去」は「往・行」に同じ。
【還償】~ものを返す。
【並して】~「決して」に同じ。
【再見】~再会。
【竟に】~「遂に・終に」に同じ。ついに。とうとう。しまいに。結局。最後に。終わりに。また(「終ぞ」に同じで)、今までに一度も。未だ嘗て。
【謁して】~身分の高い人などに面会することを謙っていう語。
【許愿】~「愿」は「願」に同じ。「許」はここでは、当てにする、まことと信じる、の意。「愿」は、願う、望む、の意。
【夢告】~夢の中でお告げ。
【賜はす】~高貴な人が、身分の低い人に物を与えること。「お与えになる。御下賜になる。
【托在】~託す。
【時に】~まさしくその時。時あたかも。
【暁雞】~「暁」は、夜明け、の意。「雞」は「鶏」に同じ。にわとり、の意。
【翅を拍つ】~「翅」は「羽」に同じ。はね、の意。「拍つ」は「撃つ」に同じ。「羽撃つ」とも。鳥が羽ばたきをする。
【好夢】~良い夢。
【驚かす】~ここでは、目を覚まさせる。起こす。
【覚め来れば未だ明らかならず】~夢が覚めてみたら、まだ何のことか、夢の記憶がはっきりしなかった。『由来記』には「夢覚来不審」、『旧記』には「好夢覚来不明」とある。
【果然】~予期したとおりになるさま。果たして。案の定。
【昨夕】~昨日の夕方。
【稍しも】~「少しも」に同じ。
【相異】~「相違」に同じ。二つの物事の間に違いがあること。
【焉に於て】~「是に於て」に同じ。漢文訓読に由来の語。この時に。こういうわけで。
【将て】~(漢文訓読「以て」に同じ)。そして。(それ)によって。(それ)について。(それ)をもちいて。(多く「…をもって」の形で格助詞のように使用)・・・・・・て。・・・・・・で。・・・・・・でもって。・・・・・・によって。・・・・・・の理由で。・・・・・・により。・・・・・・に。・・・・・・の上に。・・・・・・に加えて。・・・・・・の上に。・・・・・・かつ。・・・・・・しながら。
【速やか】~手間をとらず早くするさま。すぐ。
【讀身】~「讀」は、あがなう、交換して取引する、の意。
【奈んせん】~「如何んせん」に同じ。どうしたらよかろうか。どうしようか。いい方法が見出せないことを表す。残念にも。
【家主】~貸し家の所有者や、一家の主の意の時の読みは、「いえぬし/いえあるじ/やぬし」なのに対して、その家の主人の意の時の読みは、「いえぬし/いえあるじ」。
【奴婢】~召使い。下男と下女。
【以て】~(漢文における「以」や「式」の訓読から生じた語)。そして。(それ)によって。(それ)について。(それ)をもちいて。(多く「…をもって」の形で格助詞のように使用して)・・・・・・て。・・・・・・で。・・・・・・でもって。・・・・・・によって。・・・・・・の理由で。・・・・・・により。・・・・・・に。・・・・・・の上に。・・・・・・に加えて。・・・・・・の上に。・・・・・・かつ。・・・・・・しながら。
【償去】~「償」は、あがなう、「去」は、取りさる、の意。
【歴る】~月日が過ぎる。時が経つ。
【細さに】~「具に」「備に」「悉に」とも。細やかで詳しいさま。細かくて詳しいさま。詳細に。すべてをもれなく。ことごとく。
【已/既にして】~「已」は「」とも。そうこうしているうちに。かれこれする間に。やがて。
【還願】~「願解き」・還愿き」・「かえりもうし」に同じ。神仏に許願してその祈願が叶ったことに対して、お礼の願をなすこと。
【石龕】~石の厨子。
【漸次】~しだいに。だんだん。
【殷富】~「殷」は、盛ん、の意。栄えて豊かなこと。また、そのさま。
【是れに由りて】~「此れに由りて」とも。漢文訓読語で接続詞的に用いる。このことによって。こういう訳わけだから。こういう理由で。
【遍く】~「普く」とも。もれなくすべてに及んでいるさま。広く。一般に。
【祈禱】~広義には、祈願、祈念、祈り、の意。
【一説】~一つの説。一つの意見。ここでは、別の説、別の意見、ある説、の意。
【首里桃原邑】~首里の、三平等の一つ、南風之平等の、桃原邑。「邑」は「村」に同じ。
【賦性】~天賦の性質。生まれつきの性質。天性。
【貞静】~「貞」は、節操がある、貞節、の意。「静」は、落ち着いて静かである、の意。
【姿色】~容姿。みめかたち。
【絶世】~世に並ぶ者がないほど優れていること。
【媒婚】~求婚の意。人を介して結婚を申し込むこと、とりもつこと、仲立ちをする、の意。
【許婚】~婚約すること。また、婚約した人。いいなずけ。
【肯んぜず】~ 「肯んずる」は、承諾する、聞き入れる、引き受けるの意で、それに打消の助動詞が付いたもの。
【況んや】~まして。なおさら。そうなのだから言うまでもなくなおさら。
【閨室】~寝室。ねや。閨房。
【杜ざす】~「閉ざす」に同じ。ふさぎ止める。
【成長するに至り】~「至る」は、到達するのため、ここでは成人する、の意。
【某家】~ある家、の意
【出嫁】~嫁ぐ、嫁にゆく、の意。
【奇異】~普通と様子が違っていること。不思議なこと。また、そのさま。普通と変わっていて妙であること。また、そのさま。奇妙。
【敢て】~後に打消の語を伴って、必ずしも、の意。また、後の打消を強めて、少しも、全く、の意。
【予】~われ。自分。
【婿夫】~夫。
【相見する】~対面する。会うこと。
【妨げ無し】~さまたげになることはない。障害はない。問題ない。
【請乞】~「請」は、どうぞ・・・・・・してください。お願いする、頼む、・・・・・・してもらう、の意。「乞」は、請う、求める、の意。
【心志】~意志。志。
【幽癖】~「幽」は、世間から離れてひっそり暮らしたい、の意。「癖」は、好み、習性、くせ。
【人情】~人間の自然な心の動き。人としての情け。
【必ずや】~後に推量の語を伴う。間違いなく。きっと。かならず。決して。
【推謝】~何かにかこつけて断る。
【准さざらん】~許さないでしょう。
【忽/便/倏ち】~非常に短い時間内に動作が行われるさま。直ぐ。即刻。瞬く間。あっという間。俄に。急に。速やかに。(多くが「たちまちに」の形で)、現に。確かに。まさに。ただ今。「立ち待ち」の意から派生した語。
【丈夫】~確かなさま。確実。
【果たして】~予想していた通りであるさま。思った通り。案の定。やはり。
【愧じる】~「愧」は「恥・羞・慙」とも。恥ずかしいと思う。面目なく思う。
【趕ひ去く】~追いかけて行く。
【尋ぬる】~所在のわからないものなどを探し求める。
【踪跡】~「蹤跡に同じ。ここでは、行方。 消息、の意。。
【尊ぶ】~崇め敬う。尊敬する。とうとぶ。
【祈求】~切に願う。こい願う。
【歴経】~「経歴」に同じ。ここでは、年月が経つこと。年月の過ぎ去ること。
【説】~話。
【稽詳】~ 「稽」は、考える、調べる、の意。「詳」は細かいところまで行き届いて詳しく調べがついていること、詳しい、の意。
※琉球八社〜琉球八社については書籍やネットにたくさん説明があるので詳細は略。琉球國において特別扱いを受けた八つの神社、波上宮・沖宮・識名宮・安里八幡宮・天久宮・末吉宮、普天満宮、金武宮を現在では一般的に指すが、あくまで八社は琉球処分により琉球國が廃され沖縄県になり現在に至って確定したもの。古く琉球には臨済宗と真言宗の二派の仏教が伝播し、琉球王府から寺禄を支給された八つの寺が存在し、寺は神社と併置されたのが琉球八社の由来といえる。寺や神社は長い年月の間に廃れたもの、加えられたものがあり一定ではない。ちなみに例えば、1605年、僧の袋中良定が著した『琉球神道記』には、「波上権現護国寺」、洋権現臨海寺(洋が沖宮に対応)、尸棄那権現神応寺(尸棄那が宮に対応)、天久権現性元寺、末好権現満寿寺(末好が末吉宮に対応)普天間権現神宮寺(普天満宮に対応)、八幡大菩薩神徳寺(八幡が安里八幡宮に対応)、伊勢大神長寿寺(長寿宮に対応)、天満天神長楽寺(かつて久米村にあった寺社)という記述があり、寺社はセットで、九つある。
【原文】普天閒邑之東有一洞窟民常放在農器一日有觀音磁像安置之于石壇上不知何處之人奉安于其中即鄰里之人大奇怪之深爲尊信而有求祈之人必到此地而祷祈焉則靈驗捷乎影響焉後亦安谷屋村有一夫婦常爲農業儉勤兼全然五穀不登賦税多缺于是婦請夫曰妾賣身于他家以完賦税若得一點暇時以便紡績以償其身請乞良人盡力于田畝以供家資若天賜洪慈降來介祉以爲贖身再爲夫婦結偕老之契以終天年焉夫婦流涙而別焉即賣身於首里以爲人婢時剪髮爲髢賣之于市上以買祭品毎夜到普天閒焚香許願歴閲三四年九月之閒一夜獨身赴普天閒行到結彩門邊(俗呼鳥居)偶逢一老人婦女驚駭而要退去老人曰勿爲驚異吾托汝看守斯物婦女曰妾爲人之婢女今心有情願偸得一點閒暇拜謁神社若非速去恐有獲其罪再三固辭老人強之勸之寄在婦女婦女不得已而守護焉老人遂去不知其所之無奈之何便携其物回至首里厥後屡携其物而去要還償之竝不再見老人婦女竟要遇其老人謁社許愿其夜有夢告之曰神要賜汝特來此物托在于汝時曉鶏拍翅驚人好夢覺來未不明次夜復爲念願果然見夢與昨夕夢不稍相異賜給明告於焉乎開封見之内有黄金數塊也將其黄金速要贖身奈家主無有奴婢難以償去亦歴二秋終以其神賜事細告家主即以黄金贖焉既而大爲還願以造石龕奉安觀音于其中漸次家資殷富子孫繁榮夫婦偕老由是遠近之人遍聞其事皆到于此而祈祷焉一説首里桃原邑有一處女賦性貞静姿色絶世人皆聞之多媒求之不肯許嫁況復恆居閨室閉戸杜門不與人看又有一妹至于成長出嫁某家其夫奇異之遂告婦女曰汝姉深避人氏不敢出外予今爲汝婿夫無妨相見請乞一見汝姉婦女曰姉心志幽癖不似人情若告此言必也推謝不准今日妾詣父家與姉相話則丈夫倏到其座以爲相見而歸去父家姉妹相話之閒丈夫果從其言倏然而來以便一見姉即愧妹夫相見出外而去家人趕去姉到普天閒直入洞内而去家人往尋其姉不見其踪跡由是人皆尊以爲神有祈求者必詣此處而祈福焉此二説歴經已遠莫從稽詳
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※追記(報告)~訳の中の安谷屋の夫婦の話ですが、「毎晩普天閒に行って」の部分に疑問を持ち、首里桃原の「普天間権現発祥の地」から普天間神宮まで、2012の年末、実際に歩いてみました。道路状況が違うにしても、私の足で五時間掛かり、この話には無理があるのではないかと思いました。そこから想像したのは、そもそも別の二つの話が、混ざったのではないかという推測です。(2013.1.1)
村世亜木さん、はいさい、今日、拝なびら。
まったく、おっしゃる通りで、
ただ本を読んで話を知っているのとわかっているのでは大分違って、
僕も、この話で、首里と、普天間の間を、通ったという部分は、
通うのには、遠すぎるのではないか、と考えています。
考えられるのは、
元々、話があって、そして二つの話が混ざったのではないか、
あるいは、毎晩というのが大袈裟なだけで、やはり通った、
この二つを考えています。
権現屋敷(ごんげんやしき)といわれる、
普天閒権現誕生の地も、首里の桃原にあります。
ためしに、歩いてみようかとも、思いましたが、
片道だけで、挫折しそうなので、取り敢えず、計画は延期中。
よろしければ、一緒にいかがですか?
たぶん、みんな、嫌だって言うでしょうねぇ。 (笑)
なるほど、確かに、普天間まで行くのだから、
夫に、なぜ会っていかないんでしょうね?
さすが亜木さん、僕はそんな事、考えませんでしたが、確かに!
実はこの女性、情が薄いのか?
いや、会うとかえって未練が残って、離れがたくなるからだと考えたいですね。
僕も、こんど行った時、ご老人に会ったら、優しく話しかける事にしま~す。
お疲れ様でした。そして、ありがとうございます。
原文・・・漢字ばかり! あれを翻訳しているのですか?スゴイです。
最初のお話ですが
首里、普天間、安谷屋、地理的位置が分かるので
考えてしまいました。
召使が毎晩、首里から普天間宮まで祈りに来る!
>町中に持って行って売り、そして祭礼の供え物を買って、
>毎晩・普天閒に行って参拝
昔の沖縄でしたら、歩いて往復だから、無理な話だと思いました。
それから普天間宮から安谷屋は近いから、私が主人公でしたら
夫に会ってから首里に戻ります。(^^)♪
普天間宮は、私もお気に入りの場所です。
こんど行った時、ご老人に会ったら、優しく話しかけます^^
コメント以外の目的が急増し、承認後、受け付ける設定に変更致しました。今しばらくお待ち下さい。