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~琉球沖縄に伝わる民話~
新訳『球陽外卷・遺老說傳』第43話
奥村への山路で餓死した夫婦
遠い昔の時代、一組の夫婦がいて、家の暮らし向きが貧しく苦しいために毎日は救い難いものでした。
ある年、凶作に遭って、飲み食いする物が全くなくなってしまいました。
そこで夫婦は共に奥村に行って、食べ物を乞い求めてなんとか生き長らえようとしました。
途中まで行き着くと、夫がすっかり空腹だったために酷く苦しみ出して限界に達し、急に躓いて転んだまま気を失なってしまいました。
妻は大変に驚いて、奥村まで走って辿り着くと、事情を話して急いで重湯を求め、自分の夫に食べさせようとして持ち帰って来たものの、妻は気力も体力も衰え疲れ果てていたため、いまだに夫がいる場所に着くことが出来ないまま、山の中の路で餓死してしまったのでした(夫婦が死んだ場所を隔てていたのは僅かに三百歩余りでした)。
こういう理由で道を通る人が、皆この経緯を憐れんで、直ぐに木の枝を折って、二人の亡骸を蔽い隠してあげたそうです。
そうして現在の人が、この道を行き来する時にはいつも、必ず木の枝を取ってきて、そしてその塚の上に挿すようになりました。
※注や解説
【往昔】~過ぎ去った昔。大昔。往古。昔々。遙か昔。古。
【家道】~家が治まるために守るべき道徳。一家の暮らし向き、暮らしぶり。家政。家計。代々その家に伝えられた技芸。
【貧窘】~貧しく苦しいこと。
【以て】~(漢文における「以」や「式」の訓読から生じた語)。そして。(それ)によって。(それ)について。(それ)をもちいて。(多く「…をもって」の形で格助詞のように使用して)・・・・・・て。・・・・・・で。・・・・・・でもって。・・・・・・によって。・・・・・・の理由で。・・・・・・により。・・・・・・に。・・・・・・の上に。・・・・・・に加えて。・・・・・・の上に。・・・・・・かつ。・・・・・・しながら。
【度し難し】~済度し難い。道理を言い聞かせてもわからせようがない。救い難い。どうしようもない。
【凶荒】~農作物の実りが非常に悪いこと。凶作。飢饉。凶歉。
【絶す】~断つ。絶える。なくなる。つきる。(「・・・・・・に絶する、・・・・・・を絶する」の形で)他とかけ離れる。遙かに超える。
【奥村】~「奥」の以前の発音は、「うく」など。国頭間切奥村。
【赴き】~「赴く」は「趣く」とも。ある場所や方角に向かって行く。向かわせる。行かせる。物事がある方向や状態に向かう。うまくことが運ぶようにする。従う。同意する。そのような方向や趣旨で考える。
【討飯】~「要飯」とも。乞食。食べ物や生活に必要な金品を他人に乞い求めて暮らしをたてている者の総称。乞食は地方によって様々な呼び方があり(こじき・もらい・かたい・ほいと・かんじん・へんど等)、その意味の幅は広くて曖昧。元々は、仏教僧の托鉢の意「乞食」からきた言葉。托鉢は、解脱を求めて行う基本的な修行の一つ。
【活命】~ 生命を支えること。生きること。生存。
【既/已に】~以前に。前に。もはや。とっくに。どう見ても。現に。すっかり。まったく。もう少しで。今にも。「既/已に」の場合は、もう少しで、ある好ましくない事態になりそうなさま。すんでのこと。すんでのところ。
【餓】~食物が乏しく空腹のため酷く苦しむ。飢える。飢え。
【極まる】~「窮まる」とも。ぎりぎりの状態までいく。限度、限界に達する。(形容動詞の語幹について)この上なく・・・・・・である。「(「谷まる」とも書き)動きがとれなくて困り果てる。窮する。終わりとなる。果てる。尽きる。決まる。定まる。
【倏然】~急であるさま。俄な様子、さま。
【跌倒】~躓いて転ぶ。
【跑せ】~「跑す」は、走る、駆ける、走り回る、奔走する、逃げる、逃走する、の意。
【粥湯】~「御交じり」という、米粒の混じった病人や乳幼児が食べる重湯。
【討め】~「討む」は、求める、要求する、取り立てる、娶る、他人に・・・・・・される、招く、の意。
【能はず】~・・・・・・出来ない、の意。
【歩】~尺貫法における距離や面積の単位。距離の場合の歩は、左右の足を一回ずつ運んだ距離。面積の場合の歩は、約三・三〇六平方メートル。
【是れに由りて】~「此れに由りて」とも。漢文訓読語で接続詞的に用いる。このことによって。こういう訳わけだから。こういう理由で。
【行路】~道を行くこと。旅行すること。旅。行く道。通り道。道筋。人として生きていく道筋。世に処にすること。世渡り。
【憐憫】~「憐愍」とも。かわいそうに思うこと。憐れむこと。憐れみ。
【即/則/乃/便/就ち(すなわち)】~現代仮名遣いでは「すなわち」。言いかえれば。つまり。とりもなおさず。まさしく。その時は。そうすれば。その時。昔。あの頃。当時。即座に。直ぐに。たちまち。もう。既に。
【樹枝】~樹木の枝。木の枝。
【覆う】~「被う」「蔽う」「蓋う」「掩う」とも。あるものが一面に広がり被さってその下のものを隠す。表面にあるものを広をげてそれを外界から遮られた状態にする。隅々までいき渡って一杯に満たす。本当のことがわからないように包み隠す。全体を包み含む。広くいき渡らせる。
【而して】~「而して」「而して」から転じたもの。漢文訓読に用いられた語。そうして、それに加えて、の意。
【往還】~道を行き来すること。往復。
【插す】~「挿す」の異体字。
【原文】~往昔之世有一夫婦家道貧窘難以日度年遭凶荒飲食最絶夫婦共赴奥村要以討飯活命行到途中夫既餓極倏然跌倒失氣婦女大驚跑到奥村急討粥湯要進其夫而帶來婦女氣衰力疲而未能到夫所在之處餓死於山路中夫亦致餓死(夫婦隔死之地三百餘歩)由是行路之人皆以憐憫之即折樹枝以覆其死骸焉而今之人往還此路必取樹枝以插其塚之上
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仲本さま。
以前、このシリーズを訳していた時に、この話は、ありませんでした。
まったくおっしゃる通りで、生きるのに大変だった時代を学び、
今に、感謝しなくてはいけないと、考えさせられるお話です。
悲惨でありながら、夫婦の絆と愛が、垣間見られる、いい話だと思います。
日曜、みんなで朝日を見ましょう!では。
横浜のtoshiさん しのびなく、たえがたい話ですね。なんで自分で何か出来たのではと、思いがちですが、その暮らし向きは大変な状態でありましたでしょう。野垂れ死には不憫で土になり、現代の人々は恩恵を受けて暮らしている。だが孤独死がその悪い名残りで人々の絆を教えているようです。ありがとうございます。
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