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~琉球沖縄に伝わる民話~

新・口碑伝説民話集録
『琉球民話集』より、第30話


黒金座主(くるがにざーしー)子守唄(こもりうた)



 尚敬王(しょうけいおう)時代、那覇若狭町(わかさまち)護道院(ごどういん)に、黒金座主(くるがにざーしー)という怪憎(かいそう)がいました。
 座主(ざーしー)は、妖術(ようじゅつ)を使って世人(せじん)(まど)わし、また女に目がなく、若い娘などを言葉巧(たく)みに誘っては(おか)していたそうです。
 これを聞いた時の摂政(しっしー/せっしょう)北谷王子(ちゃたんおうじ)朝騎(ちょうき)は、武芸(ぶげい)学問(がくもん)ともに(すぐ)れ、胆力(たんりょく)もあった人物で、座主(ざーしー)成敗(せいばい)する機会(きかい)(ねら)っていました。
 ある日のこと、王子(おうじ)座主(ざーしー)を、()の相手として(やしき)に誘って、碁盤(ごばん)(かこ)みました。すると、碁を打ち出す前に座主(ざーしー)が言うことには、
 「ただでは面白(おもしろ)くございません。何かを()けましよう。もしも王子が、お()けになったら、失礼ですが(かたかしら)(いただ)きとうございます。」と。
 「(よろ)しかろう。では、もしお(ぬし)が負けたらどう(いた)す。」と。
 「それでは、私は、耳を差し上げると(いた)しましょう。」と。
 さて、勝負が進んでゆくうちに、座主は行き()まってしまいました。
 座主(ざーしー)は心の中で思いました。「最早(もはや)こうなっては()がれる手は一つ。妖術(ようじゅつ)を使うしかあるまい」と。そう心に決めて、王子に(じゅつ)をかけて居眠(いねむ)りをさせたのでした。
 そして座主(ざーしー)(しの)びの(じゅつ)で逃げようとした時、はっと気付(きづ)いた王子は、目もくらむ早さで一刀(いっとう)()びせ、座主(ざーしー)の両耳を()り落とし、さらに返す刀で(とど)めを()しました。
 それから後、不思議なことが起こり始めました。
 王子の(やしき)大村御殿(うふむらうどぅん)の前に、座主(ざーしー)死霊(しりょう)耳切(みみき)坊主(ぼうず)が出るようになったのです。またその(たた)りか、大村家に男の子が生れると早死(はやじ)にしました。そのために、男の子が生まれても大女(うふいなぐ)が生まれた言って、その(たた)りを()けたとのことです。
 何時(いつ)しかそれが一般住民の間にも広まってゆき、田舎(いなか)にまで、その風習(ふうしゅう)が伝わっていったそうです。

 
※注や解説

尚敬王(しょうけいおう)】一七〇〇~一七五二年(在位一七一三~一七五二年)。琉球國第二尚氏王統第十三代国王。
那覇(なは)】~。那覇の以前の発音は「なーふぁ」など。
護道院(ごどういん)】~。那覇の波之宮の横の護国寺には隠居寺が三つあり、護道院はその一つ(※現在の、奥武山公園内の神社を護国寺と間違える人がよく見受けられる。奥武山公園にあるのは、沖縄県護国神社。ここは沖縄県関係の護国の英霊や、沖縄戦に殉じた沖縄の一般市民や、本土出身者の者達を祭神として祀った神社)。琉球沖縄の、古い文献によく出てくる護国寺は、波之上宮に隣接する護国寺で、今でこそ近代的な寺で風情には欠けるものの、一三六七年に波之上宮の別当寺(べっとうじ)(※神仏習合が許されていた古い時代、神社に付属して置かれた寺)として薩摩の僧が開山し、以降この寺は、琉球の王の祈願所となった由緒(ゆいしょ)ある寺。高野山真言宗、波上山護国寺。
黒金座主(くるがにざーしー/くるかにじゃーしー)】~肌が大変黒かったため、黒金座主と呼ばれた。黒金座主は耳切坊主(みみちりぼうじ)異名(いみょう)を持つ。「耳切坊主(みみちりぼうじ)」、または、「大村御殿(うふむらうどぅん)の子守歌」としても有名。近世琉球の、伝説上の悪僧(あくそう)とされている。耳切坊主(みみちりぼうじ)は、妖術(ようじゅつ)を用いて女を(たぶら)かすなどの不義(ふぎ)を働き、時の王の尚敬王(しょうけいおう)が、弟の北谷王子(ちゃたんおうじ)に退治を命じた。王子は、彼を囲碁に誘い、(すき)を見て耳を切り落とした。その後、王子の家に座主(ざーしー)の亡霊が出るようになり、男子が生まれると早死(はやじ)にした。これを()けるために男の子が生まれると、「うふいなぐ(大女子)」が生まれたと(とな)える風習が生まれ、この風習は首里中に広まったとされる。 子守り歌は、夜、泣く子を怖がらせて泣きやませるために、かつてはよく歌われた、沖縄の子守り歌(※首里の子守唄、那覇の子守唄)。元々、話や芝居や子守歌になったこの伝説は、一八世紀前半に起こった事件に基づいているといわれる。黒金座主の実名は、波上護国寺の真言宗の高僧(こうそう)、盛海上人と呼ばれた人のようである。なお、沢山(たくさん)の種類が流布(るふ)してきた耳切坊主(みみちりぼうじ)の話は、大体の(すじ)は同じとはいえ、耳ではなく命をかけて、負けそうになった黒金座主(くるがにざーしー)北谷王子(ちゃたんおうじ)幻術(げんじゅつ)をかけようとしたが()かず、勝った王子が命の代わりに耳を切ったという話になっているものも多い。なお、黒金座主(くるがにざーしー)が実は名僧(めいそう)だったのではないかとも考えられているが、(かく)たる決め手の史料がない。()たして悪い僧であったのか、善い僧であったのか、よくわかっていない。ただ、京都五山に留学した名僧が多かったこの時代の話であり、薩摩の琉球征伐後、三十余年しか()っていない世情(せじょう)が不安定な時代であることからして、座主(ざーしー)が琉球王府の政治批判(せいじひはん)をしたために北谷王子(ちゃたんおうじ)粛正(しゅくせい)に合って殺されたのではないかとも考えられている。
北谷王子朝騎(ちゃたんおうじちょうき)】一七〇三~一七七三年。北谷王子朝騎(ちゃたんおうじちょうき)は、尚敬王(しょうけいおう)の第二子で、尚敬王の弟。二十歳で国相(摂政/ せっせい)となり、十八 年間(一七二二~一七三九年)、その要職(ようしょく)(つと)めた。大村御殿(うふむらうどぅん)は、後に、中城御殿となり、現在の尚家の祖先となっている。北谷王子は風雅(ふうが)な人でもあったようで、その琉歌(りゅうか)には以下の歌がある。
  常盤(ときわ)なる松のかわることないさめ
  いつも春くれば、色どまさる

大村御殿(うふむらうどぅん)】~龍譚池前の、元の県立博物館。元県立博物館のの東側の(かど)大村御殿(うふむらうどぅん)があった。薩摩侵入後に「大村御殿(うふむらうどぅん)」となり、明治に入ってから尚泰王によって「中城御殿」が移された。

※【子守唄(こもりうた)のいくつか】
~種類があるだけに、よく歌われてきたのがわかる。

◎ はいよー、はいよー、はい
  ()さんで(まち)かい、()いいねー
  大村御殿(うふむらうどん)(ちよう)なかい
  耳切坊主(みみきりぼうじ)ぬ立つちゆんどー、
  幾人(いくたい)幾人、立つちよみせが、
  三人(みつちやい)四人(ゆつたい)、立つちよん
  ()と、()と、()つちよみせが
  (いらな)ん、(かたな)ん、持ちよんど
  小刀(しぐぐわ)ん、どー、包丁(ほうちやア)小ん、持ちよんど
  はいよー、はいよー、ベル、ベル、ベル


◎ 大村御殿(うふむらうどぅん)
   (大村御殿の)
  (じょう)なかい
   (門に)
  耳切り(みみちり)坊主(ぼうじ)
   (耳切り坊主が)
  立っちょんど
   (立っているよ。)
  幾人幾人(いくたい、いくたい)
   (何人、何人、)
  立っちょがや
   (立っているかな。)
  三人(みちゃい)四人(ゆったい)
   (三人、四人)
  立っちょんど
   (立っているよ。)
  (いらな)小刀(しーぐ)
   (鎌と小刀を)
  むっちょんど
   (持っているよ。)
  泣ちゅる(わらべー)
   (泣いている童は、)
  耳グスグス
   (耳をグスグスと切られるよ)
  ヘイヨー ヘイヨー 泣かんど
   (ヘイヨー、ヘイヨー、泣くなよ。)
  ヘイヨー ヘイヨー 泣かんど
   (ヘイヨー、ヘイヨー、泣くなよ。)


◎「那覇の子守唄」(耳切り坊主)

  うふむらうどぅんぬ かどぅなかい
   (大村御殿の 角のところに)
  みみちりぼうじぬ たっちょんど
   (耳切り坊主が 立っているよ)
  いくたいいくたい たっちょがや
   (幾人幾人 立っているの)
  みっちゃいゆったい たっちょんど
   (三人四人 立っているよ)
  イラナんシーグん むっちょんど
   (鎌も小刀も 持っているよ)
  なちゅるわらべ みみグスグス
   (泣いている童は 耳をグスグス)
  ヘイヨーヘイヨー なかんど
   (ヘイヨーヘイヨー 泣かないよ)
  ヘイヨーヘイヨー なかんど
   (ヘイヨーヘイヨー 泣かないよ)



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