120無鼻の怪(はなもーのかい) ~琉球沖縄の民話

横浜のトシ

2010年08月24日 20:20


~琉球沖縄に伝わる民話~

『球陽外巻・遺老説伝』より、第120話。


無鼻の怪(はなもーのかい)


 喜屋武の上里邑の海岸に、不思議な場所があります。その麓(ふもと)は荒崎にあって、先端(せんたん)が七、八間(けん)ばかり海中に突(つ)き出している所があり、俗(ぞく)に「ハナフギーイベ」と呼ばれています。
 その辺(あた)りに行って、「無鼻(ハナモー)、無鼻。」、と呼んで、悪(あ)しざまに罵(ののし)ると、忽(たちま)ちにして、逆巻(さかま)く怒濤(どとう)、雷、稲妻(いなずま)といった、凄(すさ)まじい光景になるということです。
 そんなことなどあるものかと、試(ため)した者がいましたが、全く噂(うわさ)通りで、その人は大変な目に遭(あ)ったそうです。
 そのため、今も同じ事が起こると信じられています。


※注
【喜屋武】(きゃん)喜屋武の以前の発音は「ちゃん」など。
【上里】上里の以前の発音は「うぃーざとぅ/うぃーじゃとぅ」など。
【邑】(そん)邑=村。
【怒濤】(どとう)荒れ狂う大波。
ハナモーの経緯(いきさつ)には、色々な話があります。
 例えば一つは、美しい娘が侍に嫁いだところ、娘があまりに美しく、夫は旅に出る時に心配になって、鼻を剃(そ)るように妻に御願いする。そして夫は、容姿に惚(ほ)れたのではなく、人柄(ひとがら)に惚れたのだから、自分が心変わりすることはないと言う。従順(じゅうじゅん)な妻はその言葉を信じ、夫のために鼻を切り落としてしまう。しかし旅から帰って後、夫は鼻のない自分の妻の醜(みにく)さが、うとましくなって、別の女性と恋仲になる。それを知った妻は、夫を恨みながら、悲しみのあまり海に身を投げ、死んでしまう。以来、海に向かってハナモーと叫んだ者は、たちまち荒れ狂った海の波に飲まれて死ぬという話。
 また、違う話では、糸満に、それは綺麗な評判の女性がいた。隣り村の男に嫁ぐため、自分で花嫁衣裳を作っていたところ、ちょっとした不注意から、自分の鼻を切り落としてしまい、それを悲観して喜屋武岬から身を投げた。それ以来、喜屋武岬でハナモーと叫ぶとその女の霊が怒り出し、叫んだ者を高波でさらって海中深く巻き込むため、喜屋武岬は、別名、ハナモー崎と言われるようになった。
 いずれにせよ、間違っても喜屋武岬の絶壁の上で、「ハナモー」と叫んではいけません。死にますよ。


Posted by 横浜のtoshi

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