我如古の化猫 ~琉球沖縄の伝説
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~琉球沖縄の、先祖から伝わってきたお話~
奄美・沖縄本島・沖縄先島の伝説より、第99話。
我如古の化猫
オー泣ち猫(※無気味な泣き声の猫の意)が住んでいた所は、宜野湾、我如古のナガサクガマといって、我如古の北側になります。
かつて蔡温が命じて植えさせた琉球松が、道の両側にずっと立ち並んでいた、宜野湾並松と呼ばれた所の、ナガサクに、洞穴がありました。
その洞穴に、我如古の化猫が、住んでいたと言われています。
猫はある時、若く綺麗な女に化けて、我如古の人の嫁になったそうです。そして、子どもが二、三人、出来たそうです。そしてそのまま猫は、長い間、ずっと人間になりすまして、生活していました。
ところが子どもというものは、当然の事ながら、母をいつもよく見ています。父がいない時、母が天井裏などに上って行っては、鼠捕え、食べているのを見ました。
それを知ると子ども達は、父に言いました。
「お父さん。お母さんが、変な事をしています。」と。
そして見たままを伝えました。
父は、「ああそうか。」とだけ言い、きっと何かの見間違いだと思いましたが、母親の行動に、気を付けるようになりました。
すると確かに、子ども達が言うような振る舞いをしています。そして遂に、鼠を食べている妻を、問い詰めましたが、日頃から無口な妻は、何も答えません。
結局二人は、離縁する事になりました。夫は、人と猫が夫婦として暮らす事は出来ないと言い、また偽りや隠し事をする妻とは暮らせないと告げました。
貴方がそういうなら別れますとだけ言うと、化猫の妻は、家を出て行ったそうです。尚、夫はその際に、色々な物を与えました。
それでも、長年連れ添った妻の行く末が少し気掛かりな夫は、知られないようにして、こっそり後を付けて行きました。
妻は、ナガサクガマの中に入って行きました。
すると、洞穴の中から、猫同士が話しているのが聞こえて来ます。片方の猫の声は、まさしく妻であり、相手はどうも、猫の親玉のようです。
「私は、人間を上手く騙して、これまでやって来ました。しかも長い間、私は夫のために仕えて、子どもまで産んであげました。
ところが、猫だという正体が見破られて、追い出されてしまいました。この恨みは、絶対に晴らしてやります。あの人間の夫と子ども達を、必ず殺してやります。」と。
そんなようなことを、妻の化猫が話しました。
すると化猫の親玉が言う事には、
「そうは言っても、お前が、あの人間達の命を取りに行った時、あの男が例の呪文を知っていて、もしもあれを唱えられたら、お前はどうするのか。二度と命を取れなくなってしまうのだぞ。そんな事など、やめておきなさい。」と。
すると妻の化猫の、「確かにそれはその通りです。」という声が聞こえました。
夫は、その後も続いた猫達の会話や呪文を一通り聞き終わってから、そっとその場を離れました。
しかし、妻の化猫はどうしても諦めきれなくなり、夜になると、家の門の前にやって来ました。そして、青泣きし始めたのです。
そこで夫は、ナガサクガマの前で立ち聞きした呪文を、唱え始めました。それを、今の言葉にすると、こうです。
青泣き猫よ
青泣きするなよ
青泣きしたら
北風が吹けば
南に吹き飛ばされるよ
南風が吹いたら
北に吹き飛ばされるよ。
そういった内容の呪文だったと伝わっていますが、今となっては、正確なところは分かりません。
何れにせよ、妻の化猫は、呪文のために、夫と子ども達の命を奪って復讐を遂げる事が、出来ませんでした。
我如古のナガサクの、オー泣ち猫は、大体このような話であるそうな。
※この話の参考とした話
①沖縄本島・沖縄県宜野湾市宜野湾~『宜野湾市史」第五巻資料編四 民俗
②沖縄本島・沖縄県島尻郡東風平町世名城~『こちんだの民話』上巻 昔話編
③沖縄本島・沖縄県宜野湾市~『南島説話』
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●伝承地
①沖縄本島・沖縄県宜野湾市宜野湾~オー泣ち猫(無気味な泣き声の猫)が住んでおる所は、我如古ナガサクガマ(長棚洞窟)といって、我如古のずっと北側になっておるわけだ。宜野湾並松といって、八キロメートル以上も松並木がずっと続いていたんだがね。そこのナガサクという所に洞穴があったんだ。そのほら穴に我如古の化猫が住んでいたというわけだ。
猫がきれいな若い女に化けてですね、我如古の何とかいう人の嫁さんになったんだと。そして、子どもが二、三名できたわけだね。猫はずっと人間になりすましておったが、子どもたちがよく注意してみたら、お父さんがいないときに、天井裏なんかに上ってネズミを捕えて食べておったそうだ。それを知った子どもたちが、お父さんに、「変だよ。こんなことをするんだよ。」と告げたらしいね。「ああそうか。」といって、父親もよく気をつけていたら、たしかにそんなふるまいがあったって。それで、離縁することになり、いろんなものを与えてやったらしい。それで、ある程度話がついて、「じゃあ、あなたがそういうなら別れる。」といって、妻(化猫)は出て行ったそうだ。夫が、知られないようにしてその後をつけて行ったら、猫はナガサク洞窟の方に行ったというんだね。そこで、猫同士、相手は猫のボスかもしらんが、これに話していたんだと。
「私はうまくやっていたのに、こんなに長く私は仕えてきたのに、猫の正体を見られて追い出されてしまった。この恨みはぜひはらしてみせる。あの人を、夫を必ず殺してやる。」というようなことを話したらしい。この夫は、後をつけていって立ち聞きしているわけさあね。すると、ボスみたいな猫が、「おまえが命を取りに行ったときに、あの男がこんな呪文を唱えたらどうするか。おまえは、全く命を取れなくなってしまうよ。」と言ったら、「それはそうだね。」というふうに話しているのを、夫は聞いてしまったんだね。
それから、この猫(妻)は洞窟で話していたように、家の門の前にきて青(オー)泣きしたわけだ。そうしたら、夫はこの呪文を唱えたんだ。ガマの前で立ち聞きした呪文をね。それで、猫はどうすることもできないで、とうとう、命を取ることはできなかったんだと。「青(オー)泣き猫よ 青(オー)泣きするなよ 青(オー)泣きしたら 北風が吹けば 南に吹きとばされるよ 南風が吹いたら 北に吹きとばされるよ」というような呪文が話にはあったが、しっかりとは覚えていない。我如古ナガサクの青(オー)泣き猫というのは、だいたいこういうような話だったよ。(『宜野湾市史」第五巻資料編四 民俗)
②沖縄本島・沖縄県島尻郡東風平町世名城~妻が猫だと知った夫は、隣の物知りの所を訪ねた。物知りが言うには、「妻を里帰りさせなさい。
その時魚を多く買い入れ、お膳に入れて妻に担がせ、貴方は十五間ばかり風下から歩きなさい」とのことだった。その通りにすると、妻が洞窟の中の親と話しているのが聞こえた。その話は子供の魂を取ってくるということだったので、夫は急いで家に帰り、猫が入ってこられないようにした。(『こちんだの民話』上巻 昔話編)
③沖縄本島・沖縄県宜野湾市~昔、宜野湾間切の我如古村に、ひとり身の老人がいた。ある美しい女と結婚して、子どもを二、三人もうけたところ、子どもが母ちゃんは鼠を取って食べていると言うので、笊いっぱいの魚を持たせて、女を家から出した。老人が女の跡を付けて行くと長柵(ながさく)の洞穴に入って行ったので、耳を傾けると、わたしはスジヤ(人間)に子どもを生んでやったのに追い出されたのは許せないから、あの老人を殺してやると話している。すると、もう一つの声が、そんなことを言っても人間が、『我如古長柵の、青泣き猫、青泣きするな、高鳴きするな、云々』という符呪を唱えたらどうすると話している。果してその夜、猫が老人をとり殺そうとやって来て、門口に立って青泣きしたので、老人は心得たりと、洞穴で耳にした符呪を唱えると、猫はどうしようもなくて帰っていった。沖縄では今でも猫が青泣き高泣きすると、この符呪を唱える。(『南島説話』)
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