玉御殿と木田大屋子 ~琉球沖縄の伝説
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~琉球沖縄の、先祖から伝わってきたお話~
奄美・沖縄本島・沖縄先島の伝説より、第187話。
玉御殿と木田大屋子
むかし昔の話で、沖縄では知られたお話です。
前川の村の側にお墓がありますが、ここに葬られているのは木田大時という、首里の王に仕えた占い師のものだそうです。死後に「時之大屋子」という位が授けられました。
この木田という人物は、とても頭が切れた上に、幼い頃からセジが大変に強かったと伝わっています。占いが良く当たったために人々から感謝され、相談を持ち込む人が増えていきましたが、見返りを求めず、親身にみんなの相談にのったり、病気や心の病を治してあげていました。
琉球国には、国を支える正規の神官である、聞得大君やノロやツカサといった、国や地域を治める大名のような神人がいました。
それとは違って、別に、昔から民間には男の占い師のトキなどがいました。木田の死後、時之大屋子という役職が王府に置かれたとも言われています。後には、迷信を利用して邪術を使い、人を惑わし、人々の争い事によく絡んで治安を度々乱す者が多かったため、民間占い師である男のトキや女のユタは、 琉球国府、明治・大正・昭和政府によって幾度となく禁圧が繰り替えされました。長い間、男のジュリ買いと女のユタ買いは家を傾かせる元凶とされながらも、なかなかこの悪習から抜け出せずに騙される者が少なくありません。
しかしながら、この木田が生きた時代は、それより遙か昔のことで、木田は幼少からセジが強く、占いが良く当たると専らの評判の、とても真面目に人々に尽くした民間霊媒師なのでした。
ある時、王子が重い病気に罹り、手の打ちようが、なくなりました。そんな時、噂を聞いていた尚眞王は木田を呼び寄せ、相談したのでした。そして木田に言われた方々の御嶽や拝所を、王が拝んで回ったところ、その御利益があってか、王子の病は治ったのでした。
それからというもの、木田は王にとても可愛がられたため、特に王府の様々な人々の嫉妬や怨みを買う事になってしまいました。悪い心の人々は、事ある毎に木田にいじわるし、何とか殺してしまおうと企んだのでした。そして遂に、木田の、いかがわしいセジの力を試すようにと、王に話を持ちかけたのでした。
ある日のこと、一匹の鼠が箱に入れられ、それを知らない木田に向かって、王は、箱の中に鼠が何匹いるかを尋ねました。
すると即座に木田は答えました。
「三匹おります。」と。
途端に、王の側近の悪い心の人々は、ここぞとばかりに、木田が大嘘つきの詐欺師で、王は騙されていると、騒ぎ立てたのでした。そのため、王も期待を裏切られて面目を失って怒り怒し、木田はそのまま、当時の死刑場に送られてしまったのでした。今の那覇新港が昔の安謝港で、ここで首が刎ねられるのが慣わしでした。
城でのこの騒ぎが一段落した頃、ある者が鼠が一匹入った箱を開けました。すると鼠が子鼠を二匹生んでいて、三匹になっているではありませんか。
その事は直ぐにさま王に伝えられ、王は即座に早馬を出し、死刑を止めようとしましたが、時、既に遅く、木田大屋子の首は、刎ねられた後でした。
王は酷く後悔し、嘆き悲しんだものの、後のまつりでした。しかし二度とふたたび、このような間違いを起こすまいと、心に強く誓ったのでした。
なお一端は玉城の前川に葬られた木田でしたが、王によって、後に首里の王家の墓である玉御殿に、改めて丁重に葬られたそうな。
※この話の参考とした話
①沖縄本島・沖縄県島尻郡南風原町神里~『ふるさとの民語 南風原町』第一集
②沖縄本島・沖縄県島尻郡渡嘉敷村前島~渡嘉敷村史別冊『とかしきの民話』
③沖縄本島・沖縄県国頭郡宜野座村福山~『宜野座村の民話』下巻〈伝説編〉
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●伝承地
①沖縄本島・沖縄県島尻郡南風原町神里~部落側にお墓があるそうですがねえ。この方は木田大屋といって、首里の王様に仕えたそうですよ。そして、とても頭がきれるし、ある程度霊感があったんでしょうねえ。占いみたいようにやったもんだから、皇太子が病気なったもんだから、王様がこの人を呼んで相談したところ、方方の御嶽とか、ああいうところ拝んだら良くなるからと言って、まあその通りやったら良くなったらしい。そしたら、この方は、王様にかわいがられたので、また、別の家来たちがこの人ばっかりかわいがられるといって、悪い心を起こしたんでしょうねえ。結局、いじめて、これを死刑にしてやろうと思って、一つのねずみを箱に入れてですね、この木田大屋に箱の中を見えないようにして、「このねずみは、結局、何匹おるか」と言うと、「三匹いますよ」とこの木田が答えた。別の人たちは、、一匹入れたんだから、てっきり一匹しかいないと思った。そう言ったもんだから、王様に、「この人は、うそをつくよ。一匹しか入れてないのに三匹と言うのは。これはうそをついて人をだましている」と言ったら、王様もとても怒った。昔は、首を切る死刑場は、安謝の港にあった。そこに連れて行って、死刑にしなさいと王様から命令受けて、これが死刑場に連れていかれてから、まあ、本当かうそかと開けてみたら、このねずみは、子どもを二匹生んで、結局三匹なったもんだから、王様はそれ聞いて、「早馬で早く行って、あの死刑するのを止めなさい」と言ったが、早馬で使いが行くまでに、木田大屋は、もう首を打たれてしまってですねえ、王様はとても悲しんで、自分が悪かったと、この人をわざわざ前川から首里の玉御殿(王家の墓)に入れてですね、一番真中に葬ったという話です。(『ふるさとの民語 南風原町』第一集)
②沖縄本島・沖縄県島尻郡渡嘉敷村前島~一匹入れた筈の鼠が、三匹になっていた。(渡嘉敷村史別冊『とかしきの民話』)
③沖縄本島・沖縄県国頭郡宜野座村福山~昔、王様は、霊感を信じていなかった。それで、或る日、占い師に籠の中の鼠の数を聞いた。籠の中には一匹しか入れなかったのに、四匹と答えたものだから、その場で首をはねた。ところが、後で調べてみると、確かに四匹入っていた。それから王様は、自分の側に占い師を置くようになった。(『宜野座村の民話』下巻〈伝説編〉)
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