久良波祝女殿内 ~琉球沖縄の伝説
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~琉球沖縄の、先祖から伝わってきたお話~
奄美・沖縄本島・沖縄先島の伝説より、第175話。
久良波祝女殿内
日本の民話の中には、旅の道中にある難所の山越えの際、特に夜の危険を避けるため、近くの民家や宿に旅人が泊まり、宿の娘と一夜を共にし、寝ている間に殺されてしまう話がよく残っていますが、琉球にも似た話が伝わっています。
むかし昔、久良波は丁度、首里や那覇と、名護のほぼ中間にある山田村の中にある場所でした。古く、金武間切と読谷山間切の村を切り取って恩納間切の村となる前の山田村は、読谷山間切に属していました。那覇から久良波までの比較的平坦な道に比べ、ここからは暫くは山道が多く続いたため、首里や那覇からの旅人は山田村周辺で宿をとり、翌朝、出発する事が多かったそうです。
久良波にある久良波祝女殿内は、かつては祝女が住む殿内でしたが、長い年月と共にその血を受け継ぐ者達によって、いつしか旅人が泊まる宿に変わっていきました。
そしていつの時代のことか、この祝女殿内には、入る人はいるが、出て来る人はいない、という噂が立ち始めました。この宿の一家は旅人を泊めて、妻や娘と一緒に座敷に寝かせ、旅人が眠った時分に殺して埋めるということを、ずっと繰り返していたのです。もちろん旅人のお金や財産を盗むためです。余りに沢山の旅人が、この宿に泊まると消息を断たったため、次第に噂が広まるのも至極当然なものの、その話が本当かどうかは誰にもわからなかったのです。しかし噂は遂に首里にまで届き、話の真偽を確かめるため、知恵のある者が送り込まれたのでした。役人の男は旅人に扮し、一人でその宿に泊まりました。
悪智恵や無知を神が許す筈もなく、その時分の宿は既に父と娘二人だけで細々と営まれておりました。すると噂に違わない成り行きで、男はその宿の美しい娘と一緒に寝ました。やがて夜が更け、娘がぐっすり寝てしまうと、自分の布団にくるまりながら男は色々と考えを巡らせました。そして暫く経ってから、男は自分が寝ていた布団に娘をそっと移し、自分は娘が寝ていた布団にくるまり、じっとしていました。
すると真夜中のこと、案の定、突如天井から槍が落ちてきて布団に突き刺さりました。
槍を振り下ろしたのはもちろん宿の主であり、客の布団で寝ているのが娘とは思わず、その横の娘の布団の中で寝ているのが旅人だとは気付きもしませんでした。
その後、父親は直ぐに逃げて行方知らずとなりましたが、子孫は遂に絶え、屋敷と、「入る人はいるが、出て来る人はいない。」という歌だけが残ったそうな。
※この話の参考とした話
①沖縄県中頭郡読谷村字伊良皆~『伊良皆の民話』読谷村民話資料1
②沖縄本島・沖縄県中頭郡読谷村瀬名波~「瀬名波の民話」読谷村民話資料4
③沖縄本島・沖縄県中頭郡読谷村喜名~『喜名の民話』読谷村民話資料2
④沖縄本島・沖縄県中頭郡読谷村儀間~『儀間の民話』読谷村民話資料5
⑤沖縄本島・沖縄県中頭郡読谷村渡慶次~『渡慶次の民話』読谷村民話資料7
⑥沖縄本島・沖縄県中頭郡読谷村長浜~『長浜の民話』読谷村民話資料3
⑦同上~同上
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●伝承地
①沖縄県中頭郡読谷村字伊良皆~むかし昔、久良波祝女殿内は、祝女の住む殿内だけれども、そこは、山原への道だったので、ちょうど旅宿だったようだ。それで、客は、首里からも那覇からも、あちらこちらからやって来た。客は、泊まり客が多く、よく泊まったので、それで大変儲かったらしい。この祝女殿内に、「入る人はいるが、出て来る人はいない」という、話がある。それはどうしてかというと、旅人がそこに泊まると、宿の主は初め、自分の美しい娘だけれども、そこの座敷に寝かせておいた。そうして客が、眠った時分に上から、天井から槍を下ろして、すぐに、泊まっている客を槍で射ち止めて、お金やら宝物やらを全部盗んでしまったようだ。盗んで、その宿の主は、あれからもこれからも、大変多くの物を盗ったので、世間の噂が悪くなり、「これは、このままではいけない」と官府も考えていた。また、ある、知恵のある人が、「お金のある人を苦しめてはいけない」と思って、それで、自分一人でそこに行って泊まった。初めは、この寝間で布団から何から被って、そこの女も一緒に寝ていた。その客は、「これは、物事はよく考えなければいけない」と思い、自分の被っている布団や寝具は、その女に被せておいて、そんなふうにしておいてまた、自分は女物を被っていた。そしたら思った通り、いよいよ、その天井から槍を下ろしているようだ。槍を下ろしたら、そこの女が客の物を被っているし、またそこに泊まっている人は、女物を被っていた。それで自分の娘を客と思って、すぐそこに槍を立ててみたら、自分の娘に当たってしまったらしい。この例え話から、「久良波祝女殿内に、入る人は居るが、出て来る人は、一人もいない。」という歌が、作られていたという話。(『伊良皆の民話』読谷村民話資料1)
②沖縄本島・沖縄県中頭郡読谷村瀬名波~客と間違えて娘を殺してしまった旅館の夫婦は、翌日首を吊って死んでいた。(「瀬名波の民話」読谷村民話資料4)
③沖縄本島・沖縄県中頭郡読谷村喜名~久良波首里殿内では、来客を待って殺しては家の裏側に埋めていた。ある時、一人の武士がそこに泊まった。そして寝た振りをしていた。すると娘が包丁を持って入って来た。侍はすかさずその娘を捕らえた。(『喜名の民話』読谷村民話資料2)
④沖縄本島・沖縄県中頭郡読谷村儀間~宿屋の近くに住む草刈りが道端で、「久良波首里殿内、入る人やうしが、出じる人ぉうらん」と歌を歌っていた。草刈りから訳を聞いた侍が試してみようと思い、そこに泊まった。真夜中父親が包丁を研いでいたので、娘と場所を入れ変わった。すると父親は自分の娘を殺してしまった。そこは子孫も絶えて、屋敷ばかりが残っている。(『儀間の民話』読谷村民話資料5)
⑤沖縄本島・沖縄県中頭郡読谷村渡慶次~泊まり客を食べてしまうという鬼の家があった。ある旅人が、その家の灯を見付、一夜を明かそうと思った。そこが鬼の家だとわかり、どうして逃げ出そうかと考えている時、ある易者の言葉を思い出した。「急がばまわれ」である。旅人は風にまかせてゆれる竹にしがみつき、垣根を越えて外に出た。それから、足跡を残すといけないと思って後ろ向きで逃げた。(『渡慶次の民話』読谷村民話資料7)
⑥沖縄本島・沖縄県中頭郡読谷村長浜~久良波首里殿内にカボチャを植えたそうだ。そこは、沢山の人を殺して埋めてあるので、大豊作だった。実ったカボチャはとても大きく、その中に人の頭蓋骨が入っていたという。(『長浜の民話』読谷村民話資料3)
⑦同上~旅人を殺して埋めた所に冬瓜が出来たが、たった一つしか実らなかった。出来た冬瓜を切ってみると、血が出て来た。だから現在でも、一つしか実らない冬瓜は食べるものではないと言われている。(同上)
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