てぃーだブログ › 琉球沖縄を学びながら、いろいろ考えていきたいな~ › 琉球民話『球陽外巻・遺老説伝』のご紹介(旧版) › 128白銀堂(はくぎんどう・いーびんめー) ~琉球沖縄の民話

~琉球沖縄に伝わる民話~

『球陽外巻・遺老説伝』より、第128話。


白銀堂(はくぎんどう・いーびんめー)


 兼城(かねぐすく)の糸満邑(いとまんそん)の北に、一つの岩があり、名を、白銀岩といいます。
 むかし、西原の幸地邑(こうちそん)の人で、美殿(みどん)という男がこの村に引っ越して来て、ここに住んでおりました。
 薩摩人(児玉宗左衛門)から、お金を借りて、数回に渡って約束(やくそく)を違(たが)え、一向(いっこう)に、お金を返そうとしませんでした。
 ある日、薩摩人が、催促(さいそく)にやって来ましたが、約束していたのに家を留守(るす)にしていた美殿(みどん)に立腹(りっぷく)し、彼は、方々(ほうぼう)を探し回った揚句(あげく)、遂(つい)に、白銀岩の下に隠(かく)れている美殿を見付けたのでした。
 怒(いか)り心頭(しんとう)した薩摩人が、腰の太刀(たち)を抜(ぬ)いて一刀両断(いっとうりょうだん)で斬(き)り殺そうとした、まさにその時です。美殿は、涙声(なみだごえ)で訴(うった)えて言うことには、
 「私が、何時(いつ)も隠(かく)れて、貴方(あなた)を騙(だま)す人間に見えるでしょうか。
 ただ、お返しする金子(きんす)がないのです。
 貴方へのお約束(やくそく)を果(は)たし得(え)ず、恥(は)ずかしさの余(あま)り、止(や)むを得(え)ず、こうして隠(かく)れるより他(ほか)に仕方(しかた)がなかったのです。
 何卒(なにとぞ)、命だけは、お助け下さい。
 来年こそは必ず、間違いなく、お返し致します。
 古人(こじん)の教えに、こういうものがございます。
 『心(こころ)(いか)れば、則(すなわ)ち、手を動かす勿(な)かれ。
 手動かば、即(すなわ)ち、当(まさ)に戒心(かいしん)すべし(意地ヌ出(ンジ)ラー手引キ、手ヌ出ラー意地引キ)』」と。
 そう言って、泣いて頼んだところ、薩摩人は美殿(みどん)の言葉を聞いていうことには、
 「確かに、それは道理(どうり)だ。」と。
 そしてその言葉に感銘(かんめい)を受け、尤(もっと)もだと納得(なっとく)したのでした。
 そして美殿(みどん)の一命(いちめい)を助けたばかりか、更(さら)に、返済(へんさい)の期限を、来年まで延(の)ばし、今までのことも許(ゆる)してあげたのでした。
 それから後、薩摩人は、郷里(きょうり)の薩摩に帰りました。
 さて、薩摩の家に着いた時のことです。
 丁度(ちょうど)真夜中になっていました。それでも、勝手(かって)知ったる我(わ)が家(や)のこと。寝ている者を起こさないようにと、静かに戸を開け、部屋に入ると、何と驚いたことに、貞淑(ていしゅく)である筈(はず)の自分の妻が、間男(まおとこ)と抱き合って、寝ているではありませんか。
 頭に血が上(のぼ)った薩摩人は、腰の大刀(たち)を抜(ぬ)き放(はな)ち、間男と妻を切り捨てるべく、刀を大上段(だいじょうだん)に振りかざしました。
 その時です。ふと瞬間に、あの美殿(みどん)の言葉が、頭をよぎったのでした。
 そこで念のため、刀を振(ふ)り翳(かざ)しつつ、燈台(しょくだい)を手に取り、照らし出した目の前の二人を、よくよく見てみました。
 すると、何と間男と思ったのは、男装(だんそう)した、自分の母ではありませんか。
 母は、息子が遠い旅に出ている間(あいだ)、もしも悪い男にでも忍び込(こ)まれでもしたら取り返しがつかないと考え、夜(よ)な夜な、みんなが寝静まってから、人知れず男装(だんそう)して、嫁(よめ)と寝ていたのでした。
 いってみればあの時、美殿(みどん)から、古人(こじん)の戒(いまし)めの言葉を聞いていたお蔭(かげ)で、彼は、母と愛妻の二人を、殺さずに済(す)んだのでした。そのため、この薩摩人は美殿に、大変感謝したのでした。
 それから後、薩摩人は、再び沖縄にやって来ました。
 早速(さっそく)、お礼のお酒を持ち、糸満の美殿(みどん)を訪(たず)ねました。そして、美殿のお蔭(かげ)で、母と妻の命が助った経緯(いきさつ)を、話して聞かせました。そしてその恩を、深く感謝したのでした。
 一方、美殿の方はというと、返済(へんさい)のお金をすっかり整え、用意していました。そして、かつて期限を延(の)ばし、命を助けてもらった礼を心から述べ、そのお蔭で、このように返済(へんさい)するお金が出来たのだと言い、そのお金を薩摩人に差し出しました。
 薩摩人が言うことには、
 「私の母と妻の命は、お金に替(か)えることなど出来ません。せめてこのお金は、あなたがそのまま受取(うけと)って頂(いただ)きたい。」と。
 そう言いましたが、美殿は、どうしても受け取ろうとしません。
 互(たが)いに、心から相手に恩義(おんぎ)を感じていた二人は、お金を、押しつ返しつしながら、何時(いつ)まで経(た)っても、押問答(おしもんどう)が続きます。
 そこで二人は、よく相談の上、以前(いぜん)、美殿が隠れていた岩の下にその金を埋(う)め、互いにその志(こころざし)を表(あらわ)そうということになり、二人でお金を埋めることにしました。
 後世(こうせい)の人が、この話を聞き、その岩を白銀岩と名付(なづ)けて、神様がいる聖地(せいち)として礼拝(れいはい)するようになりました。
 これが白銀堂の由来として、言い伝えられいます。


※註
~『琉球国由来記』には、「ヨリアゲノ嶽、白金ノイベ」とあり、町を鎮守(ちんじゅ)する神が祀(まつ)られていることが書かれ、この伝説より古くから、白銀岩があったことがわかっている。霊所とされていた岩下に隠れた美殿が、温情によって命が助かり、後に、自分も美殿に恩を感じた貸主の薩摩人と共に、金銭を献納(ほうのう)したことが、何時(いつ)しか、白銀堂の由来(ゆらい)になったのではないかとも考えられているが、定(さだ)かではない。
 
※注
【兼城】(かねぐすく)兼城間切(まぎり)。兼城の以前の発音は「かにぐすぃく/かにぐしく」など。
【糸満】(いとまん)糸満の以前の発音は「いちゅまん」など。
【邑】(そん)邑=村。
【西原】(にしはら)西原間切。西原の以前の発音は「にしばる」など。
【幸地】(こうち)幸地の以前の発音は「こーち」など。
【間男】(まおとこ)夫のある女が他の男と肉体関係をもつこと。また、その相手の男。


Posted by 横浜のtoshi





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ルミさん、はいさい、今日(ちゅう)拝(うが)なびら。

携帯には便利さがありますが、
今のところ、パソコンには及びません。

それでも、
お互いに、良さがありますから、
その時の、自分の置かれた状況に合わせて、
結局は、両方を楽しめば、いいんです。

ルミさんが、PCに早く慣れるには、
ブログを見るよりも、
自分にあった、ゲームをPCに入れると、
PC操作が、知らないうちに上達しますよ。

それから、
お薦めはしないんですが、
実は、ルミさんのような人のための、素晴らしいグッズがあるんです。

PCに、USBで指す、キーボード。
まさに、携帯電話のキーボード配列なんです。

ただ、お薦めしない理由は、
どんなに、携帯キーボードの早撃ちが出来たとしても、
昔で言うならタイプライターのキーボード、
今で言うならPCのキーボードに、かなうわけがないんです。

時代が進歩して、便利になったなんて、
この事に関しては、錯覚もいいところ。
かえって、馬鹿になっている若者が多いのが、現実です。

騙してもうけようとする、
会社や、悪賢い大人の餌食に、なっているだけのことです。

あくまでも、この点に限ってのことですが。では。
Posted by 横浜のtoshi横浜のtoshi at 2010年09月03日 00:16


横浜のtoshiさん
こんばんは
白銀堂の話は聞いたことがありました。
でも、こんなに、詳しく教えてもらったのは、初めてでした。ありがとうございます

どころで昨夜初めて、toshiさんのブログをPCで見ました
PCの方が文字が大きくて良かったです

携帯とパソコン両方が上手く楽しめるようになりたいです(笑)これからも宜しくお願いしたします
Posted by ルミ at 2010年09月02日 22:40


かめきち様。こんにちは。

あまり確かではないんですが、
suzuさんが、
僕のブログを見て頂いたようで、
それで初めてsuzuさんのブログを拝見したところ、
ちょうど、
雄パパイヤの写真が、目に飛び込んでいました。

数年前に、沖縄で僕も偶然、これを目にし、
たまたま不思議に思って調べたところ
(沖縄の人に聞いても答えが返ってこなかったので)、
とても珍しい現象だと、知ったわけです。

文章は適当に、
アレンジして載せて頂いても、全くかまいません。

なお、
suzuさんのブログに、コメントするにあたり、
一応、
再度、きちんと調べた上で確認して、書き込ませて頂きましたので、
それなりに、真実性は高いですが、
何しろ、専門分野外なので、ご了承下さい。
では。
Posted by 横浜のtoshi at 2010年09月02日 21:20


横浜のtoshiさん、こんばんは。

実は雄パパイヤの件で、suzuさんのブログにコメントされているようですが、
私のブログでもそのコメントを利用させて下さい。
宜しくお願いいたします。
Posted by かめきちかめきち at 2010年09月02日 19:40


仲本さま、はいさい、今日(ちゅー)拝(うが)なびら。

『走れメロス』を思い出しますか。
そう言われてみれば、命や友の大切が主題で同じでした。
言われて、今、気づきました。

人がそうあるべきなのは、確かなことです。

この話も、そのために大切にされて、
今に伝えられてきたのですから、チムで受けとるべき話ですね。

言われてみますと、
こんな友を持っている人間こそが、
見せかけやうわべでなく、
本当に、心根が優しい人間なんでしょうねぇ。

指ですが、親指だったため、
今以上は、もう良くならないようです。
時々、ちょっと痛いのと、左手に、力が前ほどは入りません。
それでも、
特別、不便はありません。
ご心配を、お掛けいたしました。
にふぇーでーびる。

この十年ぐらい、夏に、沖縄に行かなかったのは初めてです。
それでも、
夏休みも、そして、9月からも、
朝は、仲本さまのブログを見て、僕の一日が始まっております。

そして、
沖縄に昇るティーダは、
僕や子ども達の心の中で、
一点のかげりなく、昇り続けております。感謝です。

コメント、ありがとうございました。
では。
Posted by 横浜のtoshi at 2010年09月02日 15:32


toshiさん。
白銀堂の話はよく聞かされましたが、詳しく読ませてもらいますと
いつもですが涙が出てまいります。命は金で買えない太宰治の走れメロスを思い出すのです。二人とも約束を守った信じた。
人はそうあるべきと思って、優しく生きたいです。
ありがとうございます。指大丈夫ですか!
Posted by 仲本勝男仲本勝男 at 2010年09月02日 09:37


yukuru mamaへ。

暑い~、あつい~、アツイ~、あちこーこーが、もう一ヶ月以上、続いています~。
沖縄、涼しそうで、いいなあ~(笑)。

初夏に、沖縄の総体に行ってた先生も生徒も、
沖縄は、涼しかったって言ってます(笑)。

沖縄をよく知らない人が沖縄に行くと、でーじ面白いです。
沖縄に行って、楽しかったって言う人と、文句ばかり言う人。
沖縄に、合わない人っていうのがいて、見ていて、つい、笑っちゃいます。

せっかちな人。性格が細かすぎる人。のんびり出来ない人などなど。

もっとも、沖縄の生活を、こっちで生活したら、のたれ死にですが(笑)。
大好きな沖縄に行くと、僕なんか、労働意欲、なくなっちゃうものなあ。

都会では都会の生活を、島暮らしでは島暮らしが、やはり合っているのでしょうねぇ。
どっちも、良いところ、悪いところ、いろいろです。

でも、関東と違って、関西の人は、どうなんでしょうか?

昨日、聞いたら、朝補習、今週は、しなくていいんだそうです。
高2ですから、相当、みんな勉強したようです。少し安心(数名、除く)。

mamaもそろそろ、疲れが出る時期。リフレッシュして下さい。
白銀堂の感想、こんど、御願いしま~す。

いつもコメント、ありがとうございます。
Posted by 横浜のtoshi横浜のtoshi at 2010年09月02日 07:10


かめきち様、こんにちは。

白銀堂の話は、沖縄の民話の中では、かなり知られているほうだと思います。

特に、
子ども用の童話、若者の様々なイベントのためにアレンジされているので、
内容が、多少、異なるにしても、今でもよく知られているわけです。

自分が知っていても、トボけて、
色々な方の、白銀堂の話を、お聞きしてみるのは、オツなものですよ。
ついでに、他の色々な民話も、聞けたりしますからね。
こういうユクサーは、きっと許されますし、聞き上手なんて言われます。

随分、前の話ですが、
読谷村の公共施設で、オバーが、ウチナー口で、この話を語る講座がありました。
あらすじを知っているので、少しはわかるだろうと、無料だったので、意気込んで参加。
・・・・・・。

まったく、わかりませんでした~(笑)。

この話は、よい話なので、でーじ好きですが、
僕の目的の一つには、
こういった有名な民話や伝説と同様に、
まさに、忘れ去られ、消え失せようとしている他の民話を、
同等に、引き上げたいという思いがあります。

そうしないと、せっかくの話が、可哀想な気がして、ならないのです。
それに、その話を伝えてきた人々の思いが、途絶えてしまいます。

そんなこと考えているのは、僕だけか?(笑)。

そういえばジスタス、那覇ではなくて浦添は、温泉付きと聞いて、いいなあと思いました。

いつもコメント、ありがとうございます。
Posted by 横浜のtoshi横浜のtoshi at 2010年09月02日 06:57


横浜のtoshiさん

こんばんは~o(^-^)o

新学期が始まり、また
忙しい毎日が続きますね!
私も白銀堂は行ったことがありますよ~(笑)

去年のお正月に行って来ました。

toshiさん夏バテしないように気をつけて下さいね!o(^-^)o
Posted by yukuru mama at 2010年09月02日 00:31


横浜のtoshiさん、こんばんは。


最近私の通っているスポーツクラブジスタスで、ある会員の方が白銀堂のこの話をしていました。
糸満の白銀堂にチャンスがあったら、いってみようと思います。
Posted by かめきちかめきち at 2010年09月01日 23:18


コメント以外の目的が急増し、承認後、受け付ける設定に変更致しました。今しばらくお待ち下さい。

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