~琉球沖縄に伝わる民話~

『球陽外巻・遺老説伝』より、第69話。

宝の玉(たからのたま)

 むかしむかし、宮古に女神(めがみ)がいらっしゃいました。
 名を、天之司(あまのつかさ)と申しまして、この神様は、手に明珠(めいしゅ)をお持ちになり、着物の美しさまでまばゆいほどで、その姿の美しさは、この世の者とも思えぬほどで、玉(ぎょく)と言うべきか、花と言うべきか、とても筆(ふで)や口(くち)では言い尽(つ)くせない美しさであったそうです。
 この神様が、ある時、たまたま隅屋森山(すみやもりやま)に、お降りになって、偶然(ぐうぜん)にも、美理真白殿(みりましるどん)という人に会い、二人は夫婦(ふうふ・めおと)になりました。
 その後、二人の間(あいだ)に、一人の男の子ができましたので、名前を、真種若按司(ましゅわかあじ)と付(つ)けました。
 この子供が、生まれつき、並(なみ)の人とは遙(はる)かに違う、才器徳量(さいきとくりょう)を兼(か)ね備(そな)え、人として勝(すぐ)れ、常日頃(つねひごろ)から人の生きるべき道(みち)を重んじ、そして又、神様を崇(あが)め、老人を尊(たっと・とうと)び、幼い者を慈(いつく)しみました。
 真種若按司(ましゅわかあじ)が、十五才の時、母は、明珠(めいしゅ)を取り出して、それを真種(ましゅ)に与(あた)えるなり、自分は風となって、何処(どこ)ともなく消えてしまいました。
 父子にとっては一大事(いちだいじ)。四万八方(しほうはっぽう)手を尽(つ)くして探(さが)しまわりました。それからというものは、暇(ひま)を見つけては、毎日々々、探し歩き、三年あまりが経(た)ちましたが、とうとう、たずね当(あ)てる事は出来ませんでした。その間、父は一時(いっとき)も妻を忘れる事とてなく、何時(いつ)でも妻の事を思い詰(つ)めていたため、その心配のあまり、遂(つい)に病気になってしまい、亡(な)くなってしまいました。
 真種(ましゅ)は、なくなく父を、美理間山に葬(ほうむ)りました。
 さてこの頃(ころ)、浦島主嘉那間按司(うらしましゅうかなしまあじ)の子に、喜佐真赤真良(きさまあかまら)と言う女がありました。
 この女が、人伝(ひとづ)てに、
 「真種(ましゅ)の家に、この世に二つとない宝の珠(たま)がある。その珠の光といったら大変なもので、四方を隈(くま)なく照らす様(さま)は、まるで冴(さ)え渡るお月様の様(よう)らしい。」
と聞いてからというもの、もう欲しくて欲しくてたまりません。それを何とか自分の物にしたいと、色々と悪企(わるだく)みをしていました。
 真種(ましゅ)とて、普段(ふだん)から用心(ようじん)は決して怠(おこた)りません。早速(さっそく)、家の柱の根本(ねもと)に穴(あな)を堀(ほ)って、珠(たま)を、その奥深くに隠(かく)してしまい、自分が一人でいる以外の時は、決してそれを見るような事はしなくなりました。
 一方、赤真良(あかまら)は、珠(たま)を隠(かく)されて、奪(うば)う事が難(むずか)しくなったので、ますます躍気(やっき)になって、十五、六人の婦人を集めて男の服装をさせ、手に手に丸太棒(まるたんぼう)を持たせ、夜が更(ふ)けるのを待って、真種(ましゅ)の家に出掛(でか)けて行きました。
 密(ひそ)かに寝室に侵入(しんにゅう)し、有無(うむ)をいわさず、真種を高手小手(たかてこて)に縛(しば)り上(あ)げた上、喜佐間山に連れて行き、宝の在所(ありか)を言わそうと、散々(さんざん)(ひど)い目にあわせました。
 真種は、身体(からだ)中、ところ構(かまわ)わず、目茶々々に打ち苛(さいな)まれ、時にはどうにも辛抱(しんぼう)出来なくなりそうでしたが、
 「この珠(たま)は母が私に下さった物。言わば、自分の家の子孫に伝える宝だ。これをどうして、みだりに他人(ひと)になど渡すことなど出来ようか。」
という決心が、心中(しんちゅう)深く、強かったため、七日もの長い間、苦しみが続けながらも、歯を喰(く)いしばって堪(こら)えました。
 そして、どうされようとも、決して宝の隠(かく)し場所を言いませんでした。
 この時、下地主川満大殿(しもじしゅかわみつおおどん)と言う方がいて、
 「罪もない真種(ましゅ)が、赤真良(あかまら)達のために、酷(ひど)い目にあわされているそうだ。このままにしていたら、命も危い。」
という話を聞き、急いでその場所に駆(か)け付(つ)け、真種に代(かわ)って、解放するようにと説得(せっとく)しましたが、頑(がん)として聞きいれられませんでした。ただその様子(ようす)を見ていた真種(ましゅ)は、その思いやりの深い下地主の心に、はらはらと涙を流して泣き、大殿に、
 「私のために、赤(あか)の他人(たにん)である貴方様(あなたさま)が、こんなにまでして下さるとは、誠(まこと)に何(なん)とお礼を申し上げてよいか、わかりません。
 是非(ぜひ)ともあなたのお志(こころざし)に報(むく)いたいのは山々ですが、何しろこんな有様(ありさま)。いつ何時(なんどき)、私の命がなくなるやも知れません。
 それでも今、あの世に行きましても、決してこの御恩(ごおん)は忘れません。
 つきましては、あなただけにお話しします。私の家に、一つの宝の珠があります。それは、柱の根本の奥にしまってあります。もし私が死ぬような事がありましたら、私の記念として貴方様(あなたさま)が、どうぞ、それをお取り納(おさ)め下さいますよう、お願いいたします。」
と、彼にだけ密(ひそ)かに告(つ)げたのでした。
 それからも、喜佐真赤真良達(きさまあかまら)の悪道(あくどう)は止(や)むどころか、遂(つい)に大きな石で真種(ましゅ)の頭を打ち砕(くだ)き、その上、浦の小溝(こみぞ)に放(ほう)りこんでしまいました。
 これを聞いた村の人々は、あまりのむごたらしさに、皆(みな)真種(ましゅ)の心中(しんちゅう)を思うにつけ、悲しみ、涙を流しました。
 大殿は、真種を溝(みぞ)から取り上げて、その亡骸(なきがら)を、喜佐間山に手厚(あつ)く葬(ほうむ)りました。
 その時分(じぶん)、赤真良の一行は、真種(ましゅ)の家に押し掛(か)けて家を打ち壊(こわ)し、土を堀り起(おこ)して、隅(すみ)から隅まで探しまわりましたが、どうしても宝の珠(たま)を、見つけ出すことは出来ませんでした。
 大殿は、真種(ましゅ)の亡骸(なきがら)を葬った後、一人で真種の家に出掛(でか)けて行きました。
 すると、唯(ただ)一本の柱だけが、歪(ゆが)むことなく真っ直(まつす)ぐに立っていて、その柱から出る光は、天に向かってまわりのあらゆるものを照らし出しています。
 不思議に思いながらも大殿は、柱の根本を掘(ほ)って中を見てみると、果(は)たして一つの珠(たま)がそこにありました。それを取り出して家に持ち帰り、宝として珍重(ちんちょう)しました。
 それから後、大殿は、天のお助けにより幸福になり、子孫は栄(さか)え、大変な富豪(ふごう)になりました。
 また、この珠(たま)は後に、仲宗根豊見親に与えられ、豊見親は、先(さき)の王であった尚真王(しょうしんおう)に献上(けんじょう)(いた)しました。
 これをお受け取りになり、またこの珠(たま)にまつわる真種(ましゅ)の話をお聞きになった王は、無実(むじつ)の罪で死んだ真種のことを、たいへん憫(あわ)れみ、真種を、護国(ごこく)の神になさいました。
 それからというもの、村人達も、お祈りの時には必(かなら)ず、喜佐真山に、お詣(まい)りし、礼拝(れいはい)するようになったとのことです。


※註
~喜佐真御嶽・・・・・・・『琉球国由来記』によると、男神、真種若按司(ましゅわかあじ)という(川満村東方峰の上にあり、諸々(もろもろ)の立願に付、川満崇敬仕ること)とあり、以上の伝説が書かれている。


Posted by 横浜のtoshi





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仲本様、はいさい、今日拝なびら。

とても仕事が忙しく、
そんな中で、
一度読み終えたこの本に、取り組んでいるわけですが、
とても書くのに、時間が、かかるものと、かからないものとが、あります。

しかし、量や質と関係なく、
妙に、いつまでも心に残る話が少なくありません。

また、ある話についてもっと調べようと思い、
ネットで調べても、出てこない場合、
苦労して書き、残せて良かったと、少し嬉しくなります。

やはり本を読むのと違って、書く場合は、
読む時以上に、色々な所に気がつき、想像力が、よりかき立てられます。

ところで、
私の部屋と、僕の子ども達の室で、仲本様より頂いたティーダ、
常に昇り続けて、沈むことがありません。

まったく出会いは宝であり、感謝いたしております。

いつもコメントありがとうございます。
また、ブログを読んでいただき、感謝しております。
では。
Posted by 横浜のtoshi横浜のtoshi at 2010年04月13日 22:09


いつ読んでも引き込まれます。

すかさず読んでおります。ありがとうございます。
Posted by 仲本勝男仲本勝男 at 2010年04月13日 15:07


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